世界最悪の交通渋滞で知られるロサンゼルスの交通局は、61億ドル(約6670億円)という莫大な費用で建設される自動運転のモノレールの建設を検討中だ。
LAの交通局は先日、中国のBYDが率いるコンソーシアム「LAスカイレール・エキスプレス」にPDA(pre-development agreement)と呼ばれる協定に基づく事前のリサーチのための資金として最大6360万ドルを支払うことを決定した。
当然、BYDは、LAモノレール全線、LAのフリーウェイ405号線の上を走る、長さ15マイル(約24キロ)の8つの駅を持つモノレール路線を獲得したいと考えている。
また、建設会社のベクテルが提案した高速道路の下を走る地下鉄建設プロジェクトのプランも、最大6990万ドルのPDA資金を獲得した。L.A.メトロによると、どちらの案を採用するかは2025年までに決定されるという。
モノレールはドイツや日本など世界各地で利用されている。新世代のモノレールは、中国で開業したほか、インドやブラジルのサンパウロ、カイロ、バンコクなどで建設中だ。今回のロサンゼルスでの新型モノレールのプロジェクトは、米国では初の試みとなる。
BYDは、中国で複数のモノレール路線を建設しており、ブラジルなどのプロジェクトにも技術を提供している。ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが8.2%の株式を保有するBYDは、LAに北米本社を置き、カリフォルニア州ランカスターにある自社工場で製造したEV(電気自動車)バスをLAの交通局に販売している。
BYDのモノレール案は、ロサンゼルス郡交通局がコストや技術的な実現可能性などを考慮した結果、第一候補に選ばれた。
イーロン・マスクのハイパーループは却下
イーロン・マスクは、405号線の下にトンネルを掘って真空のチューブの中に列車を走らせるハイパーループを提案した。しかし、マスクが運営するボーリング・カンパニーは、ロサンゼルス郡には選ばれなかった。
UCLAとカリフォルニア大学バークレー校の名誉教授で、長年にわたりLAの交通問題に携わってきたマーティン・ワックスは、モノレールについてやや懐疑的ではあるものの、それがLAで機能する可能性には前向きだ。しかし、マスクのハイパーループは実現の見込みが無いと語る。「マスクはいろんなことを言っているが、実現するとは思えない」と、彼は述べた。
スカイレールのモノレールは、フリーウェイ405号線の中央分離帯の上を音をたてずに走ることになる。この路線は、SFバレー・サンタモニカからLA国際空港付近を通りオレンジ郡に抜けるカリフォルニアで最も混雑するエリアをつなぐことになる。
静かに走る列車は、サンフェルナンドバレーにある通勤電車のヴァンナイス駅からロサンゼルス西部の地下鉄やライトレールの駅までを、24分でつなぐ。L.A.メトロによると、2分間隔で発車する6両編成の列車を走らせて、1時間あたり、それぞれの方向に約1万4000人の乗客を運ぶことが見込めるという。
同グループは、ロサンゼルス国際空港までの延伸も提案しており、バレーから空港までのプロジェクト全体を95億ドル以下で建設できるとしている。
米国人はモノレールを知らない
LAにおいても、安価で建設が容易な未来型高架鉄道のモノレールを待ち望む声は高かった。しかし、1959年からはアナハイムにモノレールができ、ディズニーランドを訪れる人々を運んでいるが、米国ではこのような交通システムがモビリティーの解決策としてはほとんど普及していない。交通システムの研究者によると、コストは期待したほど低くなく、運用効率も従来の電車や地下鉄のようにはいかないという課題があるという。
オーストラリアのシドニーや日本では、モノレールはうまく機能しているが、線路の形状が独特であるため、システム全体に簡単に組み込むのは容易ではないという。
これは、LAが交通システムの大規模化と統合に取り組む上で、重要な検討事項となる。2028年のオリンピック開催に向けて、現地では複数の大規模プロジェクトが進んでいる。
BYDの担当者は、インドや日本、中国などではモノレールシステムがうまく機能しているが、米国の交通局の担当者は、モノレールに関する知識が足りないと話した。「彼らはモノレールに乗ったことがない。実際に見たことがないので、それが高速で多くの旅客を運べるソリューションであることを知らないのだ」と彼は話した。