彼らが『お嬢様』と呼ぶ娘が敷居の上に立っていた。マルグリット嬢は二十歳になる綺麗な娘であった。背はかなり高く、褐色の髪に、深い印象を与える目はそのやや際立った睫毛によって更に暗く見えた。豊かな黒髪は彼女の考え深げで悲し気な顔を包んでいた。彼女にはどこか異国的で人なれしていないところがあり、激しい苦しみに耐えている一種の尊大な諦めのようなものが感じられた。
「一体どうしたのです?」と彼女はそっと尋ねた。「今聞こえた騒ぎの原因は何? ……私は呼び鈴を三回も鳴らしたのに、誰も来なかったわね」
誰も答えようとしなかった。彼女は驚いて辺りを素早く見回した。彼女の立っているところからはアルコーヴに置いてあるベッドが見えなかったが、召使たちの沈んだ様子や床に散乱している衣服、部屋全体に漂う混乱状態を一瞬で見て取った。普段、この寝室は飾り気はないが壮麗な部屋であるが、今は門番のブリジョー氏のたった一本のランプのみで照らされていた。彼女は怖くなり、全身を震わせ、動揺した声で尚も尋ねた。
「何故あなたたち全員がここに揃っているの? お答えなさい。何があったの?」
カジミール氏が一歩前に進み出た。
「大変なことが起こりました、お嬢様、伯爵が……」
彼はここで言葉を止めた。次に続く言葉に自分でも怖くなり、先を続けられなかったのだ。しかし、既にマルグリット嬢は察知した。あたかも致命傷を負いでもしたかのように、彼女はさっと両手を胸に当て、一言漏らした。
「亡くなったの……」
彼女は真っ蒼になり、頭を後ろに仰け反らし、目を閉じ、よろめいた。二人の女中が飛び出して彼女を支えようとしたが、彼女は優しく女中たちを押しやり、呟いた。
「ありがとう……ありがとう…・・・大丈夫だから……放っておいて」
実際、彼女は気丈にも心弱りを乗り越えた。力を振り絞り、顔面蒼白になりながらも、歯を噛みしめ、涙を見せず目を光らせながら、ゆっくりとアルコーヴの方へ近づいていった。そこで、一瞬立ち止まり、なにか聞き取れない言葉を呟いていたが、ついに苦痛に打ち負かされ、ベッドの前にがっくり膝をつき、顔を隠し、泣き始めた。
哀切な、また同時に素朴でもあるこの絶望の光景を目の前に心を打たれた召使たちは、息をひそめ、これからどうなっていくのか、を考えていた。しかし長くは続かなかった。マルグリット嬢はすぐ元気よく立ち上がった。希望の光が突然彼女の心に差し込んだかのようだった。
「お医者様よ!」彼女は短く叫んだ。
「今お医者を探しに行っております」とカジミール氏が答えた。そして階段から話し声と足音を聞きつけて、付け加えた。
「幸いにも見つかったようです。今来られました」5.18