判事の目は指輪の宝石にじっと注がれていた。
「封印を貼る前に探すことは出来ますよ。貴女はそれを私に申請する資格があります。どうですか、申請しますか?」
マルグリット嬢は返事をしなかった。
「ええ、ええ」とマダム・レオンは言い張った。「お願いいたしますとも、判事様、探させて下さい……」
「でも、どこを探せばいいと言うの?」
「きっとこの書き物机ですよ。でなければ、伯爵様の書斎の調度品のどれかですわ」
治安判事は鍵の一件について知っていたが、構わず彼は尋ねた。
「書き物机の鍵はどこですか?」
「ああ、それが、判事様」とマルグリット嬢が答えた。「昨夜瀕死のシャルース伯爵が運び込まれてきたとき、私が鍵を壊したのです。何故だか……理由はお分かりだと思います……混乱を避けたかったのでございます。それは結局避けることは出来ませんでしたけれど。それに、この書き物机の中には大変な金額に当たる純金がしまわれていることを知っておりました。それに持参人払いの二百万フラン以上の手形も……それらは全部上の棚にしまってありました」
二百万フランが!あそこに! 居合わせた者たちは皆茫然とした。書記官は持っていた紙の上にインクの染みが出来るのにも気がつかなかった。二百万だ…・・・。
あきらかに判事は熟考に入っていた。
「ふむ」と彼は呟いた。「開かずの扉か……急速審理を発動するか……しかしこれは緊急事態でもある……あくまでも仮の裁定で行くしかなさそうじゃ」
やがて彼は決断した。
「錠前屋を呼んで来るように」と彼は言った。
早速人が遣わされた。錠前屋が来るのを待つ間、彼は書記官の隣に座り、このことを調書にどう記載すれば良いかを説明していた。
ついに錠前屋が皮の道具入れを肩に掛けて到着し、早速仕事に取り掛かった。長い時間が掛かった。鉤の嚙み合わせが上手く行かず、錠の舌を鋸で切断するという話も出たが、突然接続箇所が見つかり、折り畳み式の蓋が外れて下に落ちた。書き物机の中は空だった。上の棚には数枚の書類と、金剛砂で栓をしてある壜が一個、中に赤い液体が四分の三ほど入っていた。それだけだった。もしもシャルース伯爵の死体が白装束のままむっくり起き上がったとしても、これほどの驚愕は引き起こさなかったであろう。部屋に集まった全員が恐怖のために震えた。書き物机は空っぽだった。途方もない富が消えていた。同じ疑念がすべての者の胸を締め付けた。捕えられ、投獄され、法廷に引きずり出される自分の姿を皆が思い浮かべていた……。やがて最初の恐怖の瞬間が去ると、怒りと喧騒がそれに続いた。3.10