エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-VII-8

2021-03-17 10:03:37 | 地獄の生活

 正午には、ド・シャルース氏が自分の財産あるいは遺言書をしまっておいたと考えられるすべての家具調度品が調べられたが何も見つからなかった……ここにもない……ここにも。

 治安判事は長い家宅捜索の経験により培われた冷徹さで辛抱強く作業を続けていた。何から何までひっくり返し徹底的に調べずには置かなかった。というのも、探す物はここのどこかにある、手の届くところに、もしかしたら見える場所にあるのかもしれない、とさえ思っていたからだ。思っていたというより、確信していた。でなければ彼が今までやってきたことは一体何なのだ。シャルース伯爵はあらゆる当然の措置を講じたに違いない。それは自分の財産を受け継ぐにふさわしい血縁者のいない、あるいは自分の愛情や利権を親族以外の者に置いていた孤独な老人によく見られることだ。

 捜索をし尽くしついに終了せねばならなかったとき彼の身振りは失望よりも怒りのそれであった。目に見える成果がなかったからと言って彼の考えは揺るぐことがなかった。彼はじっと不動の姿勢を取り、目は指輪の石に注がれていた。まるで何らかの奇跡が顕れ、誰も知らない隠し場所を教えてくれるのを待っているかのように。

 「伯爵は慎重すぎるのが唯一の欠点と言われた人だ」と彼は小声でぶつぶつ呟いた。「首を賭けてもいい。その点は人がしょっちゅう確認しておるし、わしの知っておる彼の性格からしても……」

 マダム・レオンが両手を天に向かって差し伸べた。

 「ああそうでございますとも」彼女は同意した。「この世であれほど警戒心の強いお方はおられませんでした……お金のことを申しているのではありません!……と申しますのは、あの方はお金ならそこかしこに置きっ放しにしておられましたもの。でも書類ときたら!ご自分の書類は三重に鍵を掛けて保管しておられました。まるで重大な秘密がこっそり盗まれるのを怖れているかのように……それはもう偏執狂のようでした。たった一通の手紙を書くときでさえ、あの方は周りにバリケードを築くのです。これから恐ろしい犯罪に取り掛かろうとするかのように。何度見ましたことか、この私、この目で何度……」

 残りの言葉は彼女の喉に消えた。口をぽかんと開けたまま、目は大きく見開かれ、茫然とした表情で。もうちょっとで深い穴の中に足を踏み入れそうになった者のように。後ひと言でも喋れば、彼の偏執狂的な行動の一つを思わずぺらぺらと暴露するところであった。つまり彼女が閉じられたドアの鍵穴から覗いていたことを……。

 少なくとも彼女自身は、自分がちょっと口を滑らしたものの判事の耳には届かずに済んだと思っていた。判事はマルグリット嬢のことだけを気遣っているように見えた。そのマルグリット嬢は、実際にはともかく表面上はいつもの悲しげな諦めを湛え冷静で控え目な態度に戻っていた。

 「さてお嬢さん」と判事は言った。「私の権限内で出来る限りのことはいたしました。今後の捜索と財産目録作成は偶然の手に委ねることとしましょう。これだけの大きな邸宅です。まだ三室を探しただけですからな、探せばどのような驚くべき物が見つかるか分かりませぬ」3.17

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