最後の引き出しに入っていたのは、二十フラン紙幣がくるくると筒状に巻かれたもので、全部で二万八千フランあった。最後に、仕切りの間に巧妙に作られた隠し場所があり、判事はその開け方のコツを知っていたのだったが、そこには黄色く変色した手紙の束が幅の広い天鵞絨の青いリボンで括られたもの、枯れて乾燥した花束数個、素晴らしく小さな手の女性が嵌めていたと思われる女物の手袋が入っていた。それらは明らかに何年も前に消え去った大恋愛の形見の品々であろうと思われ、判事は一瞬溜息を吐いてそれらを検めた。それで彼の注意が奪われ、マルグリット嬢の取り乱した様子に彼は気がつかなかった。突然掘り起こされた伯爵の過去の思い出の品々を目にしたとき彼女は殆ど気絶しそうになったのだった……。
そうこうするうちに書き物机の探索は終わり、書記官の方も使用人全員の姓名を書き終えた。
「それではこれより」と判事が大きな声で言った。「封印の貼付にとりかかる……しかしその前に、裁判所が正式に命令を出すまで、ここにある現金の一部を当家の当座の支出に充当するべく切り離しておこうと思うが、誰が保管をいたすか?」
「ああ、わたくしは御免被ります!」とマダム・レオンが叫んだ。
「わたくしが喜んでお世話いたします」とカジミール氏が言った。
「それでは八千フランじゃ。後で報告をして貰う……」
慎重なカジミール氏が金包みを受け取り、確認をし終えると尋ねた。
「亡くなられた旦那様の葬儀は誰が取り仕切りますので?」
「あんたじゃ……一刻もぐずぐずするなよ」
この新たに与えられた重要任務に自尊心をくすぐられ、カジミール氏はそそくさと出て行った。これからイジドール・フォルチュナ氏と昼食を取りに行き、その後ヴィクトール・シュパンとたっぷり手数料を分け合うことになるかと思うと少し心が慰められた。
判事は再び口述を始めていた。
「直ちに、我々は以下に記すとおり封印を行った。白テープの両端を赤の封蝋にて封印し、その上に治安判事の官印を刻印。即ち『上記故人の寝室内: 一、書き物机の錠前部分、要請により錠前屋の手で開けられ、同じく閉じられたその開口部がテープにより覆れ……』
かくのごとく治安判事と書記は家具を逐一封印し、その都度調書に記入していった。やがて彼らは伯爵の寝室から書斎へと移動し、マルグリット嬢とマダム・レオン、それに召使たちもその後に従った。彼らはこの必要にして悲しむべき法律的手続きに最初は驚き、この王侯のような住まいに彼らの主人として暮らしていた男の秘められた内部にまで立ち入って調べ返すことに粛然としていた。その死体がまだ目の前にあるというのに……。というのは、こういった家宅捜索というのは外科医が行う検死より更に冷酷なものだからだ。死者は何も感じないことは確かであるが、彼が生前に抱いていた思いというのは自分が生きていた場所にしばらくは揺らめきながら留まるものではないか、と人は思うものだ。3.16