エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-VIII-7

2021-03-29 09:42:32 | 地獄の生活

私はかつて自分にどうかと言われたことのある『良い口』のことで話をしてみようかと思っていたところ、ある朝会計課に来るように言われました。そこは私達が『事務所』と呼んでいたところで、なにか得体の知れない怖い場所でした。夏も冬も朝から晩まで、タイル張りの大きな部屋の中で血色の悪い太った汚らしい服装の男の人が、緑のカーテンをかけた格子戸の後ろで色眼鏡を掛け、黒い絹のキャロット(頭にぴったりした縁のない帽子)を被って書き物をしていました。そこでは私達のことが記載されている登録簿がきちんと整理され、私たちを識別するため銘々に関する資料が注意深く保管され、厚紙の箱に入れられていました。

 私は胸をドキドキさせながら事務所に行きました。そこには例の血色の悪い男の人の他に修道院長様、目付きのきつい虚弱そうな小柄な男の人、それから太った気の良さそうな普通のおかみさん風の人がいました。すぐに修道院長様が、こちらにおられるのは製本屋を営むグルロー夫妻で、見習いを求めて孤児院に来られたのだと教えてくださいました。そして私にそこへ行く気があるかどうかと……。ああ、このとき私は目の前に天国の扉が開かれたかと思いました。それで急いで答えました。「はい!」と。

 するとすぐに黒キャロットの男の人が格子の向こうから出て来て、私に従うべき規則と義務について長々と説明し始めました。そして哀れな捨て子である私が皆様のお慈悲により育てられ、今ご自分の仕事場に私を雇い入れて下さるご主人と奥様の心の広さに感謝を忘れてはならないと何度も繰り返し強調しました。私には正直言って、この大いに褒めそやされている心の広さというのが理解できませんでしたし、私に期待されている感謝の理由も分かりませんでした。

 しかし、そんなことはどうでもいいのです!私は提示された条件すべてにはいはいと快く応じ、奥さんの方は大層喜んでいる様子でした。

 「この子は製本の仕事に向いているような気がしますよ」と彼女は言いました。

 すると修道院長が奥さんに向かい、この契約について守って貰うことがあると話し始めました。私が孤児院で最も優秀な生徒の一人で、敬虔で従順、注意深くて、お喋りはしない、読み書きは完璧、裁縫と刺繍も巧みで、まるで製本屋で育ってきたかのようだ、とくどくどと並べ立てました。私を自分たちの娘みたいに監督し、決して一人で放っておくようなことをせず、礼拝に連れて行き、ときどき日曜の午後には孤児院に来られるよう暇を与えてやってくれるよう、彼女に誓わせました。

 黒眼鏡の男の人の方は製本屋の主人に、雇い人に対する義務について話していました。更に、仕切り棚の向こうから分厚い本を取り出し、その一節を読んで聞かせました。私も聞いていましたが、それがフランス語であることは分かるものの内容は理解できませんでした。

 最後に製本屋夫妻はすべてに『アーメン』と答え、血色の悪い男の人が印紙を貼った紙に証書を書き上げ、双方が署名をしました。修道院長も、そして私も。そして私は親方に預けられることになったのです。

 彼女はここで言葉を止めた。子供時代の終わりというわけであった……。しかし殆どすぐ再び語り始めた。

 「この人たちには恨みを持っているわけではありません。彼らは裕福とは言えず、お金儲けにガツガツしていましたが、息子に分不相応な暮らしをさせるため身をすり減らしていました。ところが息子の方では両親が気に入らず、私はこのことでその御夫婦を気の毒に思っていました……。

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