「それじゃまるで」とフォルチュナ氏は自信たっぷりに言葉を続けた。「私がお前に恥ずべき危険な仕事をさせようとしているかのように聞こえるじゃあないか」
「い、いや、旦那、そんなことは……」
この「いや」という言葉には大いに躊躇いが籠っていたので、フォルチュナ氏は被せるように言った。
「それでは、私が徴収業務以外に、相続権主張者不存在の場合の相続財産権利者の捜索の仕事もしているということを知らないと言うのか? そうか、知っているんだな、やはり。それでは聞くが、調査することなく、どうやって相続権利者を見つけ出すんだ? 今言ったご婦人を監視してくれと私が頼んだのは、彼女を通して、本来なら自分のものであるべき財産を奪われようとしている気の毒な若者に辿り着くためなんだ。私がお前に二日間の仕事に四十か五十フランを支払うと持ちかけたのは、そういうことだったんだ。そんなことも分からないお前は恩知らずの馬鹿でしかないな、ヴィクトール!」
ヴィクトール・シュパンの中には、パリのフォブール界隈に住む労働者階級特有の長所と短所が申し分なく混在していた。生まれながらにして老成しており、年を取っても悪ガキのままであるという。つまり、彼は純真無垢でも信じやすくもなく、とりわけ人を信用しなかった。少年になるかならないかの頃から、彼は人生の裏表を見て来た。そのようにして得られた経験は哲学者も顔負けのものであった。しかし、そんな彼でもフォルチュナ氏のしたたかさを前にしては勝負にならなかった。フォルチュナ氏にはシュパンに対し圧倒的なアドバンテージがあった。彼の雇い主であること、地位、財産、それにりゅうとした身なり……。シュパンは雇い主からまず浴びせられた冷たい非難の言葉にぐらつき、やがて狼狽させられてしまった。彼の最初の印象を打消し、自分が疑いを抱いたことを殆ど後悔するところまでになったその理由は、提示された金額の低さであった。四十から五十フランという……。
「なんだ、ほんのはした金じゃないか」と彼は思った。「これは正直な仕事の報酬っぽいな。後ろぐらい仕事ならもっと大金を提示する筈だ……」
そして、しばし考え込んだ後、彼は大きな声で答えた。
「ま、いっしょ!……やりますよ、旦那」
フォルチュナ氏は内心、自分の作戦成功を面白がっていた。シュパンには大金を提示するつもりでやって来たものの、自分がもたらすであろう結果に予め確信があったので、出費をケチりたいという気持ちがあった。それがどうだ。正直者のシュパンの良心が咎めたおかげで、彼は節約することが出来たのだから。1.2