「もしお前が勉強しているところなのを見ていなかったら、ヴィクトール、お前は酔っぱらっていると思っただろうよ」と彼は言った。「こんなに突然、一体どういう風の吹き回しだ? お前が私のところへ来てから、もう二十回は同じような仕事をお前に頼んでいる。姿をくらましている私の債務者たちの何人かを見つけるためにパリ中を探し回って見つけ出してくれたのは誰だ? ヴァントラッソンの居場所を探り当ててくれたのは誰だ? ヴィクトール・シュパンだ。そうだろ? 正直な話、私には分からないんだが、さっき話した仕事と他のものとは何が違う? 他の場合は平気なのに、何故この仕事だけは良心が許さないんだ?」
これに対しシュパンはこう答えることも出来たであろう。他の場合は、それを伝えるためにわざわざ彼の家まで訪ねて来られることはなかった。他の仕事とは、世に認められた債権者の代理人として権利を行使するものであり、何の秘密もなく、白昼堂々と認めることが出来た。しかし、シュパンがその相違をはっきりと感じていたとしても、それを言葉で説明するのは難しいことだった。というわけで、彼はきっぱりした口調でこう言うことにした。
「俺が愚か者だったってことっす、旦那。この埋め合わせはきっちりさせて貰います」
「つまり、元どおり物分かりの良いヴィクトールに戻ったってことだな」皮肉な口調でフォルチュナ氏は言った。「それはよかった、本当に……だがな、一言だけ忠告しておく。ときには自分の言動に気を付けることだ……私もいつも今日ほど機嫌の良いときばかりではないからな」
そう言うと彼は重々しい態度で立ち上がり、最初に入ってきた部屋を通り、シュパンの母親に丁寧にお辞儀をすると出て行った。去り際に彼の発した言葉は次のようなものだった。
「それではお前を当てにしているよ……ちょっとばかり身なりを整えて明日正午少し前に私のところまで来てくれ」
「分かりました」
殆ど目の見えない母は立ち上がり、恭しく一礼した。しかし息子と二人きりになったことが分かるや否やこう尋ねた。
「一張羅を着て行かなくちゃならない仕事っていうのはどういうものなんだい?」
「毎日やってるのと同じような仕事だよ、おっ母さん」
老婦人は頭を振った。
「随分大きな声で話していたね! なにか言い争いをしていたんだね? あたしに隠さなくちゃいけないとはよほど重大なことなんだね? お前の御主人様の顔は見られなかったけど、声だけはちゃんと聞いたよ。あまり良い感じはしなかったね……。あれは正直な男の声じゃない。トト、お前用心するんだよ。口車に乗せられちゃいけない。よく気を付けるんだよ……」1.3