エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-XI-2

2024-03-24 10:34:56 | 地獄の生活
仇敵ド・ヴァロルセイの懐に入り込み、否定しようのない証拠を掴むのに役立ってくれると彼が頼みに思っているのが、手の中の十万フランであった。
男爵との会見が上首尾に終わったことを母親に早く伝えたくて、彼は足を急がせた。しかし、自分の究極の目的を果たさんがための様々な過程について思わず考え込んでしまい、ラ・レヴォルト通りにある粗末な住まいに着いたのは五時近くになっていた。そのとき、フェライユール夫人は帰宅したばかりであった。母親が外出することを知らなかったので、彼は少なからず驚いた。彼女が乗って来た馬車はまだ門の前に停まっており、彼女はまだショールも帽子も取っていなかった。
息子の姿を見ると彼女は喜びの声を上げた。息子の顔を見れば、何も言わなくても彼が何を考えているか分かるほどに息子の顔色を読むことに長けていたので、パスカルが口を開く前にこう叫んだ。
「うまく行ったのね!」
「ああ、お母さん、僕の予想を遥かに上回るほどに、ですよ」
「それじゃ、あのお方を見る私の目は間違っていなかったのね。わざわざ前の家まで来て助力を約束してくださったあの方の」
「そうです、まさにその通りですよ! あの方があそこまで高潔で無私無欲な紳士だったなんて、僕には到底想像もつきませんでした。ああお母さん、お母さんがこれを知ったら……」
「何を?」
彼は母親を抱きしめた。これから母親に悲痛な思いをさせるのを、予め詫びようとするかのように。そしてきっぱりと言葉を続けた。
「実は、マルグリットはトリゴー男爵夫人の娘なんです……」
フェライユール夫人は、まるで目の前で蛇が鎌首をもたげたかのように、激しく後ずさりした。
「男爵夫人の娘さん、ですって!」 彼女はもごもごと呟いた。「まぁ何てことを言い出すの! あなた、気でも違ったんじゃないの、パスカル?」
「本当のことなんです。聞いてください、お母さん……」
それから彼は男爵邸で見聞きしたことのすべてを、心痛めた口調で早口に語り始めた。トリゴー夫人のあまりに酷い行動を、真実を曲げない範囲で出来るだけ和らげつつ……。しかしそれは何のとりなしにもならなかった。フェライユール夫人の彼女に対する憤慨と嫌悪感が和らげられることはなかった。
「その女は断じて許すまじき人間です!」 息子が話し終えたとき、彼女は冷たい口調で言い切った。3.24

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