「いいですか」男爵は再び口を開いた。「このことの背後には私たちの想像もつかない何か良からぬ謎があるようです……」
「僕の母も同じことを言っていました」
「ああ、マダム・フェライユールもそういう御意見なのですね!……賢明なお方だ。それではもう少し考えてみましょう。マルグリット嬢はあなたを愛していたのですね……」
「はい」
「ところが突然、彼女はあなたを遠ざけた」
「彼女は手紙でこう言ってきました。ド・シャルース伯爵が死の床で、ドヴァロルセイ侯爵と結婚することを彼女に誓わせた、と」
男爵は椅子から飛び上がった。
「待った!」彼は叫んだ。「ちょっと待ってください……ここに真実に辿り着く手がかりがあるかもしれませんよ。マルグリット嬢はあなたに手紙でそう言ったのですね。死を前にしたド・シャルース氏が、侯爵と結婚するようにと彼女に命じた、と! ということは、ド・シャルース氏は息を引き取る前にはっきり意識があったということではないですか! ところが一方、ヴァロルセイはマルグリット嬢が一文無しなのは、伯爵の死があまりにも突然訪れたため、彼には文をしたためることもサインすることも出来なかったからだ、と言っています。この二通りの話に折り合いをつけられますか、フェライユールさん? 答えは明らかにノンだ。どちらかが間違っているに違いない。どちらが? それを突き止めねばなりません……。今度マルグリット嬢に会うのはいつですか?」
「彼女は、もう二度と会おうとしないで、と僕に命じたのです」
「それならば、その命令には背かなければなりません!誰にも悟られないように彼女と連絡を取る方法を考えねばなりません。彼女は見張られているでしょうから、手紙を書くのは論外です!」
彼はしばし思いに耽っていたが、その後言った。
「ヴァロルセイとコラルトが道徳的な意味での共犯者であることにはおそらく間違いはなかろうと思われます。しかし、そのことと物的な証拠を揃えることの間には大変な隔たりがあります。二人の悪党が罪のない人間から金を巻き上げようとする際に公証人の前で契約書を交わすことはあり得ませんのでね。証拠が必要です! しかしどこで証拠が得られるでしょう? 誰かヴァロルセイに近い者を抱き込む必要があります。それか、彼を見張り、うまく彼の信頼を得られるように立ち回れる人間をこちらから送り込むことです……」10.10
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