実際、彼の目は、敵の砲火に曝されている戦線の作戦変更を決断する将校のそれになっていた。
「しかし、即刻行動に出ることだ」彼は付け加えた。「一刻も早く」
彼は、時計を見ながら立ち上がった。
「九時か!」と彼は言った。「今夜中に戦場に赴かねばならん」
シュパンは隅でじっと動かず、しおらしい態度を崩さずにいたが、好奇心のあまり呼吸さえ抑えていた。彼は視線を落としていたが、出来る限り耳をそばだて、ボスのどんな小さな動きも逃さじと、油断なく気配を窺っていた。
ひとたび決心してしまえば、すぐに行動を起こす人間であるフォルチュナ氏は、引き出しから分厚い書類の束を取り出した。証書、書簡、受領書、請求書、不動産登記証書、羊皮紙に書かれた証明書等の束であった。
「ここに、必ず必要な口実が見つかる筈だ」と彼は、書類の束をかき混ぜながら呟いた。しかし、すぐには見つからず、じれったさに襲われた様子なのが、熱に浮かされたような性急な動作から窺えた。が、ついにぴたりと動きを止め、満足のため息が漏れた。
「ああ、やっと……」
彼は、垢に汚れ皺くちゃになった一枚の古い約束手形を手に取った。それは執達吏の令状にピンで留めてあったので、期日までに支払いがなされなかったことを示していた。この約束手形をフォルチュナ氏は頭上に掲げてひらひらさせ、手でぱちんと弾き、満足の態で言った。
「ここから攻撃を開始するんだ……ここから。もしカジミールが間違っていなかったら、俺にとって絶対必要な情報を手に入れてやる」
彼はひどく急いでいたので、書類をきちんと元通りに戻すことをしなかった。元の引き出しにぽんと投げ込むと、シュパンに近づいた。
「確かお前だったな、ヴィクトール」と彼は言った。「家具付き貸間を所有しているヴァントラッソン夫妻の支払い能力について調べ上げたのは?」
「へい、そうでさ。でも、その回答は伝えましたぜ。望みはないって……」
「ああ、分かっている。そのことじゃないんだ。彼らの住所を覚えているか?」
「よく覚えてるっすよ。現在は、アスニエール通りに住んでるっす。城壁跡を越えたところの右側で……」
「番地は?」
シュパンはぐっと詰まり、思い出そうとし、なかなか思い出せないので、猛烈に髪の毛を掻き毟り始めた。これが、何かを思い出そうとして思い出せないときの彼の癖なのだ。
「ち、ちょっと待っておくんなせい」彼はたどたどしく言った。「番地は、ええと、十八か四十六で、つまり…」
「もういい」フォルチュナ氏は遮った。「ヴァントラッソンの家の辺りまで連れて行ったら、分かるか?」
「ああ、それでしたら、もっちろん、目隠ししてたって大丈夫でさ……その家は目に浮かんでるっす。がたがたになったでかいぼろ家っすよ。隣は空き地になってて、後ろは野菜畑……」7.18
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