エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

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2020-07-27 07:01:40 | 地獄の生活

カウンターでは五十代の女が座り、煙にまみれたランプの光で、汚れたペチコートの繕いをしていた。彼女は太っていて背が低く、不健康な脂肪を貯め込みすぎてむくんでいるといった様子で、おまけに血管に血の代わりに胆汁が流れているかのように顔色が青白かった。彼女の平たい顔、突き出た頬骨、そして後方に反り返った額が、人を不安にさせるような意地悪と悪巧みの表情を与えていた。

店の奥の方の薄暗がりの中には男のシルエットを見ることが出来た。彼は背もたれのない腰かけに座り、両腕を丸くしてテーブルに乗せ、頭をその上で支えながら眠っていた。

「こりゃ、ついてますぜ!」とシュパンはフォルチュナ氏の耳に囁いた。「店にゃ客が一人もいない。ヴァントラッソンとかみさんの二人だけだ」

彼には、この状況がボスの気に入らない筈がない、と確信があった。

「てわけで、旦那」とシュパンは続けた。「ご心配にゃ及びませんや。あっしはここにいて、ちゃんと見張ってますぜ。どうぞ、お入んなすって」

彼は入っていった。ドアが音を立てたので、太ったおかみさんは繕い仕事の手を止めた。

「いらっしゃいまし。何にいたしましょうか?」とおかみさんは猫なで声で尋ねた。

フォルチュナ氏はすぐには答えなかった。彼はポケットから持ってきた小切手を引っ張り出し、それを見せながら言った。

「私は執達吏の見習いだ。この小切手に書かれてある金を受け取りに来た。五百八十三フラン、商品と引き換えに振り出されたものだ。ヴァントラッソンの署名がある。裏書はバリュータン……」

「小切手だって!」とおかみさんは叫んだ。その声は突然鋭いものに変わった。「あんまりじゃないか!ちょっと、ヴァントラッソン、起きなよ。ここに来て見てみな」

この叫びは無用だった。『小切手』という言葉で、亭主は頭を持ち上げていた。バリュータンという名前を聞くと、彼は立ち上がり、重いふらつく足取りで近づいてきた。まるで酔いの残りが脚に残っているかのように。彼は妻より若く、背が高く、体格のよい、典型的な運動選手タイプだった。顔立ちはそれなりだったが、酒盛りやあらゆる種類の下劣な習慣の過多により、すっかり崩れ、彼の人相は御しがたい愚鈍さしか現していなかった。

「あんた、何を言ってるんだ?」と彼はしわがれた声でフォルチュナ氏に尋ねた。「これは何かの冗談か。支払い期日の十月十五日に金を取り立てにやって来るってのは? 女管理人が鞄を持って帰った後は、金なんか残ってるわけないだろ?それに、なんだ、その小切手は? よこしてみろ。調べてみるから」

フォルチュナ氏は軽率なことはしなかった。彼はちょっと離れたところから小切手を見せ、その後読んで聞かせた。彼が読み終えると、相手は言った。

「その小切手は十八カ月も前に期限切れになってる」とヴァントラッソンは冷たく言い放った。「何の価値もありゃしねえ」

「それは違う! 約束手形というものは、拒絶証書作成の日から五年間が有効です」

「それはそうかもしれない。しかしバリュータンは倒産して、とんずらをかまし、誰も行方を知らねえってわけだから、俺は放免なんじゃないのか……」

「それも間違いだ! あんたは、バリュータンがこの小切手を売却した相手に五百八十三フランを支払う義務がある。その相手は私の上司に告訴を命じた……」

ヴァントラッソンの両耳に血が上り真っ赤になり始めた。7.27

 


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