「マーケット・イン」の気象情報を考えるで書いたことです。
これは
予報業務許可事業者の全国分布です。この、予報業務許可事業者というのは、いわゆる
気象会社の事です。実は、独自の予報を行うためには、予め気象庁に申請して許可をもらっておく必要があります。この許可をもらって独自予報を行うことのできる事業者が、全国にどれだけあるのか?それを都道府県別に集計したのがこちらの図なんです(ちなみに今年の4月1日の時点でのものなので、今では少し情勢が変化しています)。
これを見ると、都道府県毎に概ね均等に散らばっているような感じですが、関東地方を拡大してみますと東京都だけなんと21事業者。本当に首都圏に密集しているんですよね。全国に60近い気象事業者がありますが、その半数は首都圏に密集しているようです。
一口に「予報業務許可事業者」だの「気象会社」だのと言いましても、みんながみんな金太郎飴のようなビジネスを展開しているわけではありません。お医者さんも、内科の先生、外科の先生、皮膚科の先生・・・と様々な分野の先生がいらっしゃいます。その中でもさらに例えば、外科と一口に言っても、心臓外科、脳外科、美容整形外科、など色々な専門分野に分かれていますね。
実は気象会社も似たようなところがありまして、それこそ「総合病院」のように何でもやります!ってな所もあれば、敢えて特定の分野に絞って独自の専門分野を掲げているところがあります。また、予報の対象地域についても、日本全国どこでもカバーしていますってな所もあれば、地元密着型で特定のエリアに限定して事業を展開する所もあります。それをまとめたのがこちらの表です。
気象にかかわる分野は多岐にわたっていますが、それらを全部ひっくるめてやる!ってのが左半分のグループ、一方で特定の分野に絞って・・・というのが右半分のグループ。特定の分野というのは、例えば、落雷に特化するとか、サーファー向けの波の予報だとか、登山者向けの山の天気であったり、冬であれば雪の情報だったりします。
また、範囲をどこまで広げるか・・・という所で、全国どこでも見ますよ!ってな上半分のグループもあれば、特定地域の地元密着!ってな下半分のグループがあります。
要は「事業を手広く広げるのか」、それとも「範囲を限定してそこに集中するか」の違いですね。全国の60近い事業者の多くは、何らかの専門分野を持っています。自分の得意分野を定めた上で「
ニッチ市場」を狙っていく、そんな一種の「
ランチェスター戦略」をとっているようです。
難しい概論の後は、ちょっと身近な話題に移りましょう。
今はまだ梅雨なんですが・・・ちょっとだけ「夏」の話題になっちゃいます。
夏と言えば・・・やっぱり・・・「暑い!」ですよね。私にとって、夏の楽しみの一つがコレなんです。暑いとやっぱり欲しくなるのが「アイスクリーム」なんです。
それでは、気温が高くなればなるほどアイスクリームは売れるのか・・・と思って、調べてみたのですが、どうやら23℃から27℃の辺りがピークのようです。それ以降はアイスクリームにとって代わってかき氷の売れ行きが伸びるようです。こちらのピークは28℃から32℃の辺りのようです。
こんな風に、気象条件によって売れやすい商品も変わってくるんですね。
と、言うわけで、天気の変化によって、来客数や売れ筋の商品が変わってきます。それなら、事前に来客数や売れ筋の商品を予想して、発注すれば良いじゃないか?という発想につながります。
事前の気象予測を基にして、お客さんがたくさん来てくれそうだ、こんな商品がいっぱい売れる、って分かったらその品物をいっぱい発注して、いっぱい売って、売上アップが見込めます。また、お客さんが少なそうだな、あまり商品も売れないな・・・ってことが分かっていたら、発注量を調整して、廃棄ロスを減らすこともできるでしょう。
このように、販売量と天候の相関関係を分析・予測して、生産・出荷・在庫管理や販売促進に活用することを、「
ウェザー・マーチャン・ダイジング」と言います。
かくいう私も学生時代に、とあるコンビニでアルバイトをしたことがありまして・・・発注も担当しましたが・・・これが、なかなか難しいもんですね・・・。
続いては、夏には欠かせないビールのお話です・・・と言いつつ、かくいう私は「下戸」でございます。それはさておき、夏物の商売は基本的に「暑い夏」を想定して販売計画を立てることが多いかと思います。
しかし、近年・・・どうでしょう?冷夏の年もありますよね。
こうなってくると、暑い夏を期待して売り上げの予算を立てていたのに、冷夏になっちゃったので思うように売り上げが伸びなかった・・・ってことにもなりかねません。そんな事態に備える保険があるんです。
冷夏・暖冬などの気候変動による企業の減収を補償する金融商品で、事前に一定の契約料を支払って、異常気象が発生したら、その補償金が支払われる仕組みを「
ウェザー・デリバティブ」と言います。
これは普通の損害保険とは異なりまして、実際の損害発生の有無に関わらず、予め設定した異常気象が発生したら、補償金が払われるので、実際には金融商品として扱われるようです。
最後に、
気象台と民間の予報って何が違うの?というお話に移ります。正直な話、この手の質問が実に多いんですね。
簡単に言いますと、従来の天気予報の形はどちらかというと
「プロダクト・アウト」に近いのに対して、民間の情報は
「マーケット・イン」です。と言いますのも、民間の場合はクライアントとのコミュニケーションを重ねながら情報の形を作り上げていくからなんですね。
まとめると・・・
【プロダクト・アウト(気象庁など)】
・情報のサプライヤー側がコンテンツの内容や形式を企画・検討して、広く国民全体に提供する。
・国民誰もが同じ内容の情報を受け取ることができる。
【マーケット・イン(民間)】
・個々のクライアントの要望やニーズに基づいて、気象データやメニューを処方し、コンテンツの内容を企画して提供する。
・オーダーメードのカスタマイズや本当に必要な領域の詳しい情報をクライアントとのコミュニケーションを通じて、二人三脚でコンテンツを作り上げていく。
どちらが良いとかではなく、
両者の違いを良く理解した上でお付き合いを頂ければと思います。
私の勝手な感想ですが、気象情報に対する意識の高まりや、知識の理解が広まっていくのに伴って、潜在的なニーズが顕在化し、具体的なマーケットになっていくものと感じております。その意味では、未だ気象ビジネスのマーケットは未成熟な段階にあり、本格的なビジネスチャンスが訪れるのは、もう少し先になるのかな・・・と言うのが正直な所です。
マーケットの拡大はもとより、より多くの皆様が気象情報の恩恵を受けられるようになるためには、気象現象や気象情報に関する知識の理解を広める事が必要(むしろ、こちらが優先事項?)なのではないかと思うのです。