計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

高層天気図の見方・ポイント解説

2013年11月09日 | お天気のあれこれ

 昨日の地上天気図に引き続き、今日は上空の様子を表す高層天気図のポイントを簡単にまとめてみました。



 例えばこのような地上天気図がある場合を考えてみましょう。このような低気圧や前線があるとき、上空の様子はどうなっているのでしょうか?

 同じ日の同じ時刻の上空の天気図です。



等圧線の代わりに等高度線が引いてあります。単位はm(メートル)を用います。この図は5200~5800m付近の様子を表していることになります。それにしても、この図面は何を基準に描いているのでしょう・・・。

 実は、気圧が「500hPa」になる高さをつなげて一つの面として表しています。地上天気図では海面高度(海抜0m)を基準としていますが、上空の天気図(高層天気図)は気圧の等しい面等圧面)上の天気図を描いているのです。

 地上天気図と高層天気図の違いをイメージで描くとこんな感じです。



 高層天気図では「等高度線の形」(等圧面の凹凸)に注目します。上の図で凹んでいる部分をトラフ(=谷)、膨らんでいる部分をリッジ(=尾根、峰)を言います。

 このような等圧面の高度がどんな意味を持つのでしょうか?

 ここで、500hPa面高度が比較的高い所(面A)と低い所(面B)を比較してみましょう。大気の様子を簡単な柱に置き換えて考えてみます。このような(仮想的な)空気の柱を「気柱」と言います。



 面Aと面Bは高さは見るからに違いますが、各面上の気圧は同じ500hPaです。気圧とは「その真上に乗っている大気の重さによって生じる圧力」なので、少なくとも、A、Bの真上に乗っている大気の重さは同じ、という事になります。



 500hPa面よりも下の部分の重さは、A側の体積の方が大きいので、より重いと考えることが出来ます。



 従って、「地上での気圧」を考えると「A側の方が気圧が高い」ということになります。つまり、等圧面高度が高い所は地上の高気圧、等圧面高度が低い所は地上の低気圧に相当する、ということです。



 もう少し高度を下げてみて、1200~1600m付近の天気図も見てみましょう。この図は、気圧が「850hPa」になる高さをつなげて一つの面として表しています。



 この高さでも、日本付近はトラフになっているようですね。そういえば、地上天気図ではこの辺に、低気圧が2つありましたね。

 ここまで見てきた上空500hPa面、850hPa面の各等圧面の高度と、地上の気圧(海面更正気圧)の3次元イメージを重ねてみましょう。 



 こうしてみると、3つの面の凹凸は概ね一致しているようですね。500hPa面や850hPa面で凹んでいる部分をトラフ、膨らんでいる部分をリッジと言います。

 そして、一番下の海面更正気圧の面の凹んでいる部分は低気圧、膨らんでいる部分は高気圧です。

 この図からは、上空のトラフと地上の低気圧、上空のリッジと地上の高気圧がそれぞれ対応していることがわかりますね。

 冬の間、テレビやラジオの天気予報では「上空5500m付近で-XX℃の強い寒気」「上空1500m付近で-XX℃の強い寒気」という言葉が頻繁に使われるようになると思います。

 この上空5500m付近と言うのは500hPa面、そして上空1500m付近と言うのは850hPa面における気温を指します。テレビやラジオの天気予報を、よくチェックしてみて下さいね。

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地上天気図の見方・ポイント解説

2013年11月08日 | お天気のあれこれ

 気象情報を理解する上で欠かせないものと言えば・・・それは「天気図」。テレビや新聞、インターネットなどでも見ることのできる地上天気図のポイントを簡単にまとめてみました。

 地上天気図とは例えばこんな感じですよね。



 地図の上に、白い線が何本も描かれ、さらには「」や「」というマーク。さらにはおでんに入っているハンペンカマボコがつながったような記号・・・。実は、これらの一つ一つにも、ちゃんとした「名前」があるのです。

 それでは、名前を書き込んでみますね。



等圧線高気圧低気圧、すべて「」という字が入っていますね。さて、この「圧」とは一体、何の「圧力」なのでしょうか?

 これは「大気」の圧力、つまり「気圧」です。気圧とは、その真上に乗っている大気の重さがズッシリと圧し掛かって生じる圧力のことです。単位にはhPa(ヘクトパスカル)を用います。



 つまり、頭上に乗っている大気が「重い」と気圧は「高く」なり、「軽い」と気圧は「低く」なるわけです。

 この結果、周囲よりも気圧の高い所が「高気圧」、周囲よりも気圧の低い所が「低気圧」になります。そして空気は、気圧の高い所から低い所に向かって押し込まれることで移動します。これがとなるのです。



北半球では、高気圧の中心からは時計回りに風が吹き出し、低気圧の中心に向かって反時計回りに流れ込みます。

 低気圧に流れ込んだ空気はそのまま上へ上へと昇り、上空で雲を生み出します。その後、いずれは高気圧の中心に向かって吹き降りてくるのです。


 続いて、前線とは、北からの「冷たい空気(寒気)」と南からの「暖かい空気(暖気)」がぶつかり合う時に、その境目として現れます。温暖前線寒冷前線の違いは、寒気と暖気のぶつかり方によるものです。



寒冷前線の場合は、既に暖気が存在している所で、寒気がその下にムリヤリ潜り込む形になります。このため先に存在している暖気はグワーッと上に持ち上げられて、真上に向かう上昇気流となります。

温暖前線の場合は、既に寒気が存在している所で、暖気がその上を駆け上がっていく形になります。従って、寒気の斜面上を上昇するような上昇気流になります。

 このような上昇気流の違いは、前線上の雲の形にも現れてきます。



寒冷前線に伴う上昇気流は、真上に向かう上昇気流となります。従って、前線上に生じる雲も、まっすぐ上に広がる背の高い雲(積乱雲)になります。

温暖前線に伴う上昇気流は、寒気の斜面上を上昇するため、前線付近に生じる雲も平べったい層状の雲(乱層雲)になります。



 北側の寒気と南側の暖気が接触すると前線帯となり、その上で反時計回りの渦を生じるようになると低気圧が発達します。

 渦に伴って東側では、南からの暖気が北側の寒気の上を昇って行きます。その一方で、西側では北からの寒気が南の暖気の下に潜り込みます。

 等圧線から風向きを読む方法については「等圧線から風向きを読む」をどうぞ。

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PDCAサイクル

2012年10月04日 | お天気のあれこれ
 台風の進路予報を見続けている内に、台風予報はビジネスにおける「P→D→C→Aサイクル」に似ている・・・と感じました。

 一般に、事業を進めるにあたっては、様々な状況・事象を想定・予測しながら計画=P(Plan)を立てるわけですが、周囲の状況・情勢は時々刻々と変化するので、次第に「当初の予測」からは乖離していくものです。そこで、実際に事業をを進めつつ=D(Do)、状況・状態の確認=C(Check)を行い、状況・情勢の変化に対応するべくA(Action)を起こしていかなけれ
ばなりません。そして再び、計画=P(Plan)を立て直す・・・の繰り返しです。

 気象の現象は色々ありますが、台風の「気まぐれ」は半端ないものです。それこそ、常に「予測発表検証対応」を繰り返さなくてはなりません。約3時間で1サイクルを回すのですから、台風を担当する予報官のストレスは想像に難くありません。一度、予報(予測→発表)したら「ハイ、終わり」ではありません。常に最新のデータを取り込んで、情報をアップデートし続けて行かなければなりません。そしてこの事は、台風だけに限らず、天気予報全般にも言える事なんですね。だからこそ、そのサイクル毎に、その都度「最善」を尽くすわけです。

 私が東京にいた頃CAMJの講習会を受講した際、講師の先生がおっしゃった言葉が今も記憶に残っています。

─ 予報において「万全」を尽くすことは出来ない、「最善」を尽くすだけだ ─

 確かに、天気予報に「完全」や「絶対」はありません。当時はただ「なるほど」と感心しておりました。

 自分がいざ雨予報や雪予報に関わる立場になって感じるのは、「予報」と言うのは、単なる「予想」や「予測」ではなく、最後は人間の「決断」であるという事。

 この「最善を尽くす」ためには、日頃から予測対象について理解を深めておく必要があります。局地気象であれば「対象となる地域」の気象特性やそのメカニズムを解明するべく、日夜研究を重ねる事が必須。現在の私のフィールドは、むしろ「こちら側」にあります。日頃から蓄積された知見を基に、再び「予報」に挑むことになるのです。
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物理の授業で何を学ぶか? 数学と物理と「モデル」の関係

2012年09月07日 | お天気のあれこれ

局地気象のシミュレーションで格闘中・・・解析手法に悩み、苦しみ悶えている・・・(笑)


 これまでの人生を振り返って、「数学は得意だけど、物理は苦手」と言う人には多く出会ってきましたが、「物理は得意だけど、数学は苦手」と言う人は・・・正直、会ったことがありません。むしろ、物理が得意な人は数学も得意(もしくは好き)と言う人ばかりだった・・・と思います。

 一見、似た者同士のこの両者の違いはどこにあるのか・・・ふと、考えてみたことがあります。大学の理学部以上で学ぶ、または研究する数学や物理学の事はわかりませんが、高校生~大学教養レベルに限定して言えば、 「数学」は(既にある)公式や定理を縦横無尽に使いこなす事が求められるのに対して、 「物理」は(既にある)基本的な法則や公式を縦横無尽に使いこなして、新たな公式や方程式を組み立てる事が求められます。「物理」の問題は公式や方程式を組み立ててしまえば、後は「数学」の問題に帰着されるのです。つまり、両者の差は(問題として)与えられた現象について、新たな公式や方程式を「組み立てる」事にあるのではないか、と思えるのです。

 物理の問題は、基本的な物理現象を幾つも組み合わせた現象をテーマに出題されるため、どのような基本的な現象が、どのように組み合わされているのかを理解し、認識した上で、それぞれの基本現象の公式を組み合わせて、出題されている現象に見合った方程式を構築する・・・と言う高度な(ある意味、面倒臭い)プロセスを経る必要があります。なるほどこの部分に苦手意識を持つ・・・と言う事でしょうか。その一方で、まさにこのプロセスこそが「醍醐味」と感じる人もいるわけですね。

 物理の教科書を開くと公式の数も膨大です。これを全部、暗記するのは・・・無理だよなあ・・・と尻込みしてしまうケースも少なくありません。しかし、我が身を振り返ってみると、自分が使っている公式は・・・実はその膨大な中のごく一部に過ぎない事に気づきます。必要最小限の公式を覚えておけば、後は必要に応じて、その都度「公式」を組み立てる事が出来るからです。多くの物理の先生が、公式を覚えるのではなく、その公式がどのような法則や考え方から導かれるかを学ぶ事の重要性を指摘されています。

 結局、基本的な法則や公式に則って、どのように現象を理解し認識してゆけば良いのか ・・・その「思考法=ものの見方・考え方」を学ぶことがすなわち「物理」の勉強なのだ、と今更ながら実感しています。そして、現象やその構造・メカニズムに対する「自分なりの理解や認識」を具現化(表現)したものが「(解析)モデル」なのです。「物理の問題を解く」と言うことはすなわち、対象となる現象を「解析モデル」の形で表現し、考える事に他なりません。

 これまで学んできた機械工学も、バイオメカニクスも、エレクトロニクスも、建設・土木工学も、そして気象学も・・・対象とする現象や応用する分野は異なりますが、その対象となる現象を物理学の法則に照らし合わせて、その本質をモデル化し、数学と言う言語を用いて表現し、後はそれらをどのように応用していくか・・・につながっていくものです。

 現在、私が挑んでいる分野も複雑な局地気象のメカニズムやその構造を一旦「簡単な模型のイメージ」に落とし込んでから、物理学の法則に照らし合わせて、その本質をモデル化し、方程式や拘束条件を構築し、これをコンピューターで計算するというもの。または、局地気象のファンクション(機能)だけに着目し、これを「簡単な計算式」で表現して、コンピューターで計算するというもの。

 「効果的な質問を投げかけることで、相手の思考を促す事が出来る」とは、先日のコーチングの研修で学んだ事。

 複雑な現象を「簡単な模型のイメージ」に落とし込む際は、一つ一つの特徴についてこの本質は何なのか、それはどのように解釈・理解・表現すればよいのか、絶えず(無意識の内に)自らに問いかけています。結局は、目の前の現象やその本質を「どのように理解したか?」と言う究極の問いかけに対して、「自分なりの考え方」を構築し「自分なりの答え」を導き出そうとする営みなのです。

 質問力・・・鍛えないと・・・だな・・・。

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物理現象を如何に解析モデルの形に表現していくか・・・

2011年05月10日 | お天気のあれこれ
 このブログも珍しく・・・連休中から毎日更新しています。今回は、物理現象を如何に解析モデルの形に表現していくか、について書き進めてみましょう。


図1. 乱流数値シミュレーションの考え方


 乱流は一つの流れの中に様々なスケールの渦成分が含まれています。これら各々が互いに影響を及ぼしあう事により、流れは複雑な挙動を見せてくれます。RANSでは、全体の平均成分とそこからの偏差に分離し、平均成分はレイノルズ方程式で直接的に解き、偏差分をk-εモデル等の乱流モデルで表現しています。一方LESでは、大きなスケール成分は基礎方程式で直接的に解き、小さなスケール成分についてはスマゴリンスキーモデル等の乱流モデルで表現します。このように乱流は様々なスケールの現象が同時に含まれるマルチスケール現象であると言えるでしょう。そして、気象現象もまた、様々なスケールの現象が同時に含まれるマルチスケール現象なのです。従って、自分が今、どのスケールの現象について考えているのか、を常に意識しなくてはなりません。例えば、総観規模の温帯低気圧の挙動と局地気象のフェーン現象を同列に(ごっちゃ混ぜに)扱ってはならないのです。


図2. モデリングの3つのステップ


 そして、気象現象を構成する要素は、流体力学現象、熱力学現象、地形効果、放射収支、相変化、自転の影響…等のように多岐に渡ります(図2)。従って、解析対象となる局地気象の現象について「どの要素が本質的に重要なのか」を理解し、解析モデルを構築することが大切です。局地的な地形の影響を受けて形成される風の流れ解析に関しては、流体力学現象と地形効果は勿論の事、大気の安定性の影響も重要なので熱力学的現象の影響を考慮する必要があります。このように物理現象のモデリングに際しては、解析対象となる現象を形作る要素に分解し、何が本質なのかを見定めるための仕分けを行い、本質的に重要とされた要素を基に解析モデルの場を構築する、と言う作業が必要となるのです 。


図3. 解析者の思想・哲学


 ここで重要となるのは、何が本質なのかを見定るための判断基準です(図3)。構成要素を仕分けにおいては、解析者の思想・哲学(自然科学的世界観)が問われていると言っても過言ではありません。解析者自身が「対象現象の本質」をどのように理解し、どのように捉えているのか、そしてこれらをどのように表現するのか、と言った考え方が重要となります。つまり、対象とする物理現象において「どの要素がより支配的・卓越する(ドミナント)であると考えられるか」と言う視点が問われる事になるのです。

 もう一つ考えなければならないのが、全体的な流れの方向です。工学問題として扱われるチャネル流れやバックステップ流れの場合は、周囲を壁面に囲まれた準閉空間内の流れであるため、流れが単方向であり、入口から出口への方向が明確です。しかし、局地気象の場合は、広大に開かれた三次元空間(開空間)から対象領域を切り出して、その周囲の流れを仮定し、これを境界条件として与えています。この場合、異なる方向の流れが共存する構造もありえます。実はこれこそが、私を長年にわたって悩ませ続けている課題なのです。


図4. 複雑な流れ構造の発生


 その一例を図4に示しましょう。日本の北東に高気圧の中心が停滞する一方、日本海上から前線を伴った温帯低気圧が接近してくる気圧配置の場合です。この時、A地点における風の流れを考えてみます。下層では高気圧から低気圧に向かって風が流れ込むため、A地点における下層の風向は北東象限となります。しかし、上層では偏西風がドミナントとなるため、上空の風向は南西象限となります。このように下層と上空で風向が逆転する事も珍しくありません。このような気象場を考慮する際の境界条件の設定は容易ではありません。


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熱変数は「温度」と「温位」のどちらを使うか?

2011年05月09日 | お天気のあれこれ
 いよいよGWも明けて、本格始動といったところでしょうか。

 熱流体解析では、運動量(=質量×速度)と熱変数(主に温度)のそれぞれについての支配方程式が必要となります。前者はナビエ・ストークス方程式、後者は熱エネルギー方程式として知られております。キャビティ流れや熱伝導のような工学問題を解く際には、熱エネルギー方程式で取り扱う変数は「温度」を使用します。しかし、局地気象のように(工学問題で扱うものよりも)スケールの大きな現象の場合は、そのまま温度を適用することができない事情があるのです。


図1.室内の水槽実験を考えてみると


 仮想的な室内実験として、キャビティの内部に乾燥した空気を充填させまた状態を想定してみましょう。下から加熱して、上から冷却すると、初期状態における温度の鉛直勾配は、(∂T/∂Z)<0となるため不安定となり、時間が経つにつれて鉛直対流が発生します。上から加熱して、下から冷却すると、初期状態における温度の鉛直勾配は、(∂T/∂Z)>0となるため安定となり、時間が経っても内部流体は静止したままとなります。(※上向きに正となるような鉛直座標をZとします)



図2.温度と温位の数学的取扱


 従って、小さな室内実験スケールのキャビティ流れを考えると

・(∂T/∂Z) < 0 ・・・ 不安定 ⇒ 対流が起こる
・(∂T/∂Z) = 0 ・・・ 中立  ⇒ 安定と不安定の境界線
・(∂T/∂Z) > 0 ・・・ 安定  ⇒ 対流は起こらない

と言う事は、想像に難くないと思います。

 ところが、実際の大気現象はと言いますと、大気が乾燥状態にあると仮定した場合は

・(∂T/∂Z) < Γd ・・・ 不安定 ⇒ 対流が起こる
・(∂T/∂Z) = Γd ・・・ 中立  ⇒ 安定と不安定の境界線
・(∂T/∂Z) > Γd ・・・ 安定  ⇒ 対流は起こらない
※Γd =g/Cp:乾燥断熱減率

となります(尚、符号の取り方によっては不等号の向きが逆になる事があります)。

 ここで注目したいのは、同じ温度Tであるにも関わらず、キャビティ流れと大気現象では中立の条件が異なると言う事です。すなわち、大気現象を解析するに際しては、温度Tに関しては、キャビティ流れと同じような感覚で扱う事ができないのです。数学的な取り扱いが異なるため、何らかの配慮をしなければならないのです(面倒くさいですね)。

 実は、室内実験で扱う現象スケールでは、気圧は殆ど一定を見做す事が出来ます(無意識のうちにそのように扱っているのです)。大気現象スケールでは、気圧は大きく変化するので、空気塊の温度も熱エネルギーそれ自体に加えて、周囲の気圧の影響も加味しなければなりません。

 大気現象の数値解析は、実際の現象を模擬した小さな模型を仮想的に作って実験を行うようなものです。そしてその究極の基本はキャビティ流れに通じます。従って、大気現象における熱的効果を加味するに当たっては、実際の大気現象の温度(非保存量)を何とかして、キャビティ流れの温度のような形(保存量)と同じように扱いたいとの要請が発生します。

 この大気現象の温度をキャビティ流れのような室内実験の温度のように扱うためには、変数変換を行う必要があります。この変換されたパラメータが温位であり、この温位を用いる事により、実際の大気現象を室内スケールの模型と同じように考え、取り扱う事が可能になるのです。そんな訳で、私は数値シミュレーションの際には熱変数には「温位」を採用しています。

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天気図の見方をもう一度・・・

2011年05月07日 | お天気のあれこれ

 連休明けて初めての週末の方もいれば、ずっと連休が続いている方もいるのではないでしょうか・・・。


図1.新聞やテレビなどで見られる地上天気図



 図1は新聞やテレビなどで見られる地上天気図の模式図です。天気図の基本的な知識については中学校の理科でも履修しますが、バラエティーに富む知識を短期集中で学ぶため、消化不良でそのまま苦手意識を持ってしまう生徒さんも少なくないようです。今回はこのような地上天気図の見方を振り返ってみましょう。


図2.新聞やテレビなどで見られる地上天気図(説明を付記)



 地上天気図には様々な情報が記入されています。ここでは等圧線、高気圧、低気圧、前線に着目してみましょう。


図3.等圧線



 まずは等圧線を描いてみました。これは海面上(0m)気圧が等しい所を結んでいったものです。気圧の等高線と考えるとわかりやすいでしょう。


図4.空気にも重さがある



 そもそも気圧とは何か、について考えてみましょう。普段の生活では意識していませんが空気にも重さがあります。熱力学でも状態方程式(PV=mRT)が出てきますね。この空気の重さ(m)が気圧として現れるのです。冷たい空気は重くなる一方、暖かい空気は軽くなります。


図5.頭上の空気の総重量



 図5のイメージにように、私達は常に頭上の大気の重さを受けているのです。この重さによって生じる圧力が気圧です。この気圧が高い所が高気圧、低い所が低気圧と呼ばれるのです。


図6.高気圧と低気圧



 高気圧と低気圧を天気図で見ると、図6のような感じです。空気は気圧の高い所から、より気圧の低い所に向かって押し出されます。このために生じる空気の流れがです。


図7.高気圧と低気圧に伴う地上風



そして、高気圧と低気圧は図7のような渦となります。気圧分布が図7のように同心円状の場合は中心から放射状に流れ出したり、周囲から中心にまっすぐ流れ込みそうなものですが・・・実際には、時計回りや反時計回りに傾いています。これは、地球の自転の影響に伴って生じるコリオリの力を受けるためです。


図8.高気圧と低気圧の立体構造



 高気圧と低気圧の立体構造のイメージを図8に示しました。地上の低気圧の中心に向かって周囲から風が流れ込みます。集まった空気は逃げ場を失うため、そのまま鉛直上方へと移動し、次第に上昇気流が形成されていきます。この上昇気流に乗って昇って行くにつれて、(周囲の気圧が下がるため)空気が膨張し、その含まれている水蒸気が凝結するため、が形成されていきます。

 その一方、上空からの空気が降りて下降気流となる部分では、空気の流れが上から押さえつける形になるために大気圧が強化されるのに伴って、高気圧が形成され、この中心から周囲に風が吹き出していきます。


図9.前線を描き加える



 続いては図9のような、前線です。前線の近くでは天気は下り坂になります。


図10.寒気と暖気のぶつかり合い



 前線の構造を図10に描いてみました。南から北上する暖気と、北から南下する寒気がぶつかり合う接触面を前線面と言います。そして、前線面が地上に達してできた線上の領域を前線と言います。暖気は軽く寒気は重いので、暖気が前線面に沿って寒気の上に登ろうとします。これに伴って前線付近には上昇気流が発生し、これが雲を生み出していきます。


図11.実際の温帯低気圧の三次元構造



 実際の温帯低気圧は図11のような構造を持っています。転移層(前線面)の手前に向かって暖気が流れ込む一方、背後には寒気が流れ込んできます。前線面の前方(南東側)では南方から暖かい流れが前線面に流れ込みながら上昇する一方、前線面の後方(西側)では北西方から冷たい流れが前線面に流れ込みながら下降しています

 一枚の天気図から、このような立体構造のイメージに想いを馳せるわけですね・・・。

(追記)
 さらに詳しい解説は「地上天気図の見方・ポイント解説」「高層天気図の見方・ポイント解説」をどうぞ。

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傾圧不安定と偏西風波動、温帯低気圧の構造とライフサイクル

2011年05月06日 | お天気のあれこれ
 さて、連休も終わり・・・いよいよ今日から仕事始めの方も多いのではないでしょうか。

 これまで、大気大循環と温度風について述べてきましたので、傾圧不安定と偏西風波動、さらには温帯低気圧の構造とライフサイクルについても解説していきましょう。


図1.偏西風波動(傾圧不安定波)の発生


 既に述べたように、ジェット気流南北の温度差によって生じる傾圧性強化の結果、形成されるものですが、この傾圧性が過度に強化されると力学的に不安定な状態(傾圧不安定)となります。これは、傾圧性が強まりすぎると、その分余計に位置エネルギーを抱える事になる事を意味します。この余剰エネルギーを消費するために、大気は余分な動きをする事によりこれを解消しようとします。これが偏西風波動(傾圧不安定波)の形で具現化します。エネルギー論の視点からは、帯状有効位置エネルギー渦有効運動エネルギーに変換されると考えられます。


図2.偏西風波動の位相と高気圧・低気圧の対応


 地上から高層までをトータルで見ると、この偏西風波動の南側は相対的に高温・高圧であり、北側は相対的に低温・低圧となるため、波動が上(北)に盛り上がる位相(リッジ)では高温・高圧下(南)に盛り下がる位相(トラフ)では低温・低圧の特性が卓越します。従って、リッジとトラフはそれぞれ上空における高気圧、低気圧に対応しています。


図3.高気圧・低気圧と鉛直流


 図3には地上と上空の高気圧と低気圧の簡単な構造を示しました。このような図は中学校の理科(第2分野)でも履修したと思いますが、ここでもう一度確認しておきましょう。

 地上の低気圧の中心に向かって周囲から風が流れ込みます。集まった空気は逃げ場を失うため、そのまま鉛直上方へと移動し、次第に上昇気流が形成されていきます。この上昇気流に乗って昇って行くにつれて、(周囲の気圧が下がるため)空気が膨張し、その含まれている水蒸気が凝結するため、が形成されていきます。

 その一方、上空からの空気が降りて下降気流となる部分では、空気の流れが上から押さえつける形になるために大気圧が強化されるのに伴って、高気圧が形成され、この中心から周囲に風が吹き出していきます


図4.温帯低気圧の三次元構造


 図4には実際の温帯低気圧の三次元構造を示しました。上空のジェット気流、転移層、地上前線の対応関係は既に述べた通りです。転移層の前方(南東側)では南方から暖かい流れが転移層に流れ込みながら上昇する一方、転移層の後方(西側)では北西方から冷たい流れが転移層に流れ込みながら下降しています。


図5.温帯低気圧のライフサイクル


 図5には温帯低気圧のライフサイクルを示しました。上空のトラフが深まるにつれて低気圧も発達し、やがて閉塞していきます。

 このように・・・地球放射と太陽放射の熱収支により、南北方向に熱的不均衡を生じます。この不均衡を解消するべく、大気の大循環による熱輸送を実現しようとしますがコリオリの力が働くため、大循環の構造は三細胞構造となります。このため、隣接する二つの循環が接する領域では転移層が形成され、その上空では温度風の関係を満たすべく偏西風ジェット気流が形成されます。このプロセスにおいて傾圧性が過度に強化されると、大気は力学的な不安定性(傾圧不安定性)が強められ、この不安定性を解消するべく偏西風波動が形成されます。この波動のトラフの位相が低気圧に相当し、転移層前線面に相当する。この一連の結果、前線を伴う低気圧(温帯低気圧)が形成されます。これらのメカニズムは、地球大気の絶妙なバランスの上に成り立っているのです。


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「温度風の関係」のイメージを描く・・・

2011年05月05日 | お天気のあれこれ
 今日は5月5日。GW休暇が今日までの方も少なくないのではないでしょうか・・・。明日から仕事、でもまたすぐに週末・・・。ちなみに、私は明日からいよいよ・・・疾風怒濤の日々が始まりそうです。

 さて、今日は「温度風の関係」を取り上げることにしましょう。当初は温度風の性質と「水平風の鉛直シアー」とかいう定義を暗記していましたが・・・後述の図3のような傾圧性に基づく力学的なイメージを構築できたことで、ようやく本質を掴む事ができました。今こうして、気象学を独学で学んだ日々を振り返ってみると・・・温位温度風は特に難解な概念でしたね・・・。



図1.大気大循環と転移層・ジェット気流のモデル図


 図1に示すように二つの循環が隣接する領域では、異なる循環の、互いに性質の異なる大気同士がぶつかり合うため転移層が形成されます。この領域では温度も急変するため、その水平傾度(∂Tm/∂y)も大きくなります。

 この時、後述する温度風の関係に基づいて、この転移層の上を強い偏西風の流れであるジェット気流が走向します。極循環とフェレル循環の間の転移層上空を走るジェット気流は寒帯前線ジェット気流(ポーラージェット)と呼ばれ、フェレル循環とハドレー循環の間の転移層上空を走るものは亜熱帯ジェット気流(サブジェット)と呼ばれます。中緯度地方の日々の天気はこれらのジェット気流の動きによって大きな影響を受けているのです。

 ここからは(北半球の)中緯度地方に限定して考えていきましょう。


図2.上空のジェット気流・転移層と地上前線の関係


 転移層の上空には偏西風ジェット気流が走向している一方で、転移層は地上では前線の形で現れます。この構造を模式的に示したのが図2です。中学校の理科(第二分野)では、二つの異なる性質を持った大気がぶつかり合う接触面を前線面、そして前線面が地上に達する領域を前線と履修した筈です。実は、この前線面はある程度の厚みを持った層状の構造となっており、これが転移層なのです。

 転移層の北側は相対的に低温南側は相対的に高温となるため、両者の間の温度差が大きくなればなるほど(寒暖のコントラストが強まるほど)、その転移層における水平傾度(∂Tm/∂y)は大きくなります。この温度傾度に比例して上空の西風が強まる事が理論的に知られており、これを温度風の関係と言います。上空に昇るにつれて水平風のu成分の変化量(温度風)をutと表記すると次のような関係があります。

t = ( R / f )( ∂Tm / ∂y ) ln(p1 / p2 )


 つまり、温度風の性質としては次の4点を挙げることができます。

(1)等温線に平行に吹く
(2)暖気側を右手に見る方向に吹く
(3)気温傾度(∂Tm/∂y)に比例する
(4)上空に行けば行くほど大きくなる(p1:地上気圧、p2:上空の気圧→上空へ行く程小さい)


 従って、転移層を挟む寒暖のコントラストが強化されると、温度風の関係により上空の西風がより強化されていきます。この結果、このコントラスト(∂Tm/∂y)が特に顕著な転移層の上空ではジェット気流が形成されています。


図3.温度風の関係


 温度風の関係についてさらに考察してみましょう。図3のように転移層を挟む寒気と暖気の気柱を考えると、転移層上空では暖気側から寒気側へと下る等圧面の坂道が形成されます。いま、この坂道の上を運動する空気の塊を考えましょう。この空気の塊は坂道の斜面上にあるため、坂道に沿って暖気側から寒気側に向かって運動させようとする力が考えられる。これはジオポテンシャル傾度力と呼ばれ、傾圧性によってもたらされるものです。その一方で、この空気塊には地球の自転に伴うコリオリの力が働いている。すなわち、この二つの力が釣り合う事で、空気塊は水平方向(西向き)に運動するのです。これは地衡風の関係と良く似ていますね。

 転移層を挟む高緯度側の寒気と低緯度側の暖気の寒暖コントラスト(∂Tm/∂y)が強化されると、暖気側と寒気側の高低差が増す事に伴って、等圧面の坂道勾配が急となるため、傾圧性が強化されます。そして、力の釣り合いの関係からコリオリの力も強化されていきます。この結果、空気塊の速度はさらに増加する・・・という一連の仕組みが働くのです。

(p.s.)
層厚と温度風のイメージ」では、さらに詳しく図解しています。
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地球大気の運動方程式を基に考える・・・

2011年05月04日 | お天気のあれこれ
 それにしても・・・高校の世界史は、なかなか覚えられませんね(やっぱり、理系なんだな・・・)。古代ギリシャとローマの区別がつきにくかったり、とにかく舌を噛みそうなカタカナ言葉が多いです。その一方で、古代中国では難しい漢字ばかりでやっぱり紛らわしい・・・何とか覚えたのが、古代インド・マウリア朝のアショーカ王・・・だけ(爆)。 

 そういえば、ブログではここ2~3日、珍しく真面目に気象学の記事を書いているので(←本来はいつもそうあるべきなのですが)・・・ついでに?、大気の運動方程式についても触れておきましょう。

 今回は、局地気象ではなく・・・むしろ局地気象に支配的な影響を及ぼす、北半球規模での大規模スケールの運動を考えてみましょう。図1のように北半球上に原点をとり、直交座標系を設定します。


図1.北半球上に設置された直交座標系


 直交座標系内のある一部の空気の塊についての運動方程式は次のように表すことができます。

(x軸方向:東西方向) ρ(du/dt)=-(∂p/∂x)+ρfv+Fx
(y軸方向:南北方向) ρ(dv/dt)=-(∂p/∂y)+ρfu+Fy
(z軸方向:鉛直方向) ρ(dw/dt)=-(∂p/∂z)    +Fz-ρg

ここで
 (du/dt)=(∂/∂t)+u(∂/∂x)+v(∂/∂y)+w(∂/∂z)
 f=2Ωsinφ

 地球上の大気には、気圧傾度力、コリオリの力、摩擦力、重力の4つの力が働いています。コリオリの力とは、地球の自転に伴う慣性力で、進行方向の右向きに働きます。


図2.上空の風と地上の風


 図2には地上と上空の風の様子を示してみました。上空の大気については、x軸方向とy軸方向の運動方程式において、第一近似としてこれを定常流と見做すと、結局は気圧傾度力とコリオリの力の釣り合いに帰着するので、次の式で表されるような流れに書き直すことができます。

 g = -(1/fρ)(∂p/∂y)
 g =  (1/fρ)(∂p/∂x)

 このような上空の風を地衡風と呼びます。実は、上空の風はこの地衡風に近い状態で流れています。その一方で、地上の流れはさらに摩擦力が加わるため、風の向きが等圧線に対して傾いています。

 続いて、今度は鉛直方向について考えてみましょう。図3のような気柱(大気の柱)を考えてみます。


図3.気柱と静力学平衡


 柱の一部を赤い部分のような微小片として捉え、この微小片に働く力の釣り合いを考えましょう。重力は下向きに働き、これに抗して微小片を上向きに支える力は上下の気圧の差によって生じます。従って、重力と気圧の差による力の釣り合いは次のように表されます。

-ρ×S×Δz×g=Δp×S

 これを簡単化して

Δp=-ρgΔz

 この極限をとると、次のような静力学平衡の関係を得る事ができます。

(∂p/∂z)=-ρg

 これは、鉛直スケールの運動が無視できると仮定した場合の鉛直方向の運動方程式であると言えます。

 また、理想気体の状態方程式は次のように与えられます。

p=ρRT


図4.層厚と傾圧帯


 ここまでの知見を応用して、図4の左側に示すような気柱の中のz1~z2の部分の厚さΔzを求めてみましょう。この厚さは層厚(シックネス)と呼ばれ、上端と下端の気圧(p2、p1)と層内の平均気温Tmから次のように求める事ができます。

Δz=(RTm/g)ln(p1/p2)

 気柱の底面における大気圧は気柱内に含まれる空気の総重量に比例しますが、この式の形から、この平均気温が高ければこの気柱の底面における気圧は高くなり、この平均気温が低ければこの気柱の底面における気圧は低くなると言えます。

 図4の右側には北半球の様子を経線方向の断面図で模式的に表してみました。低緯度側では気温が高いため気柱の高さ(気圧がp2となる面=等圧面の高度)は高くなる一方、高緯度側では気温が低いため気柱の高さは低くなります。両者に挟まれた中緯度地方では、気柱の上端(気圧がp2の等圧面)は低緯度から高緯度に向かって傾斜しています。すなわち、低緯度から高緯度に向かって等圧面p2の坂道が作られていると考える事ができます。この等圧面の坂道の傾きを傾圧性と呼び、この傾きが緩やかであれば傾圧性が弱い、この傾きが急になるほど傾圧性が強いと言います。


図5. 高層天気図で見る傾圧帯のイメージ図 (夏の場合)


 図5には、500hPa面の高層天気図のイメージを示しました。地上天気図は海面上における気圧や前線の分布、そして地上の各種観測値を一つの地図上に重ねて表示していますが、上空の大気の様子を示す高層天気図は等圧面上の地図を描いています。この図は500hPa等圧面上の天気図であるため、この図面上はどこでも気圧が500hPaとなります。

 この図の等値線は、気圧が500hPaとなる高度(ジオポテンシャル高度)を表しています。冬の天気予報で「上空5500m付近の寒気が・・・」と言うフレーズを良く聞くと思いますが、この「上空5500m付近」とは、500hPa等圧面の事を指しています。この高度では60m毎に等高度線が引いてあります。図5では、500hPa等圧面は日本の南海上では5940mと高くなる一方、オホーツク海上空で5520mと低くなっていますね。

 この図の場合は、青森県からオホーツク海にかけては等圧面の坂道の傾きが急となるため傾圧性が強くなる一方、華中からシベリアにかけては等圧面の坂道の傾きが緩やかになるため傾圧性が弱い事が見て取れます。また、等高度線の形に注目してみると、沿海州から中国東北部、黄海を経て華中に向かって、下(南)に凸となる領域が広がっています。これが上空の気圧の谷(トラフ)です。その直ぐ西側では等高度線が上(北)に凸となる領域が広がっています。これが上空の気圧の峰(リッジ)です。

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大気の大循環は、なぜ三細胞構造となるのか・・・

2011年05月03日 | お天気のあれこれ
 世間はゴールデンウィークのようですが、私には浮かれている余裕はありません・・・。

 さて、大気大循環はどうして三細胞構造になるのか ・・・この問題もまた、私にとっては非常に悩ましいものだったので、今回取り上げてみました・・・。


図1.地球放射と太陽放射(上)、地球放射と太陽放射の熱収支(下)


 地球放射と太陽放射の関係について図1上に示しました。周知のように地球には太陽からのエネルギーが降り注いでいます(太陽放射)。その一方で地球は外部に向かって常にエネルギーを放出し続けています(地球放射)。

 図1下のグラフには地球放射と太陽放射の熱収支を示しました。赤道付近では加熱が進む一方、極地方では冷却が進む事になるので、赤道から極に向かっての熱輸送が行われます。この熱輸送の仕組みとして考えられているのが、これから述べる大気大循環です。


図2.大気大循環の構造


 当初は図2(a)のように赤道を熱源極地方を冷源とした一つの大きな熱対流が起こっていると考えられていました。しかし、実際には図2(b)のような三つの循環からなる三細胞構造だったことがわかってきました。この構造のメカニズムについて、単純化して考えてみましょう。


図3.大気大循環の水槽モデル概念図


 図2の大気の大循環を、図3のように簡単なモデルに表してみました。水槽の片側を熱源反対側を冷源としてこの水槽内の鉛直循環を考えるものです。


図4.極循環の形成メカニズム


 まずは極循環の形成メカニズムを考えてみます。図4に示したように、当初の考え方によれば、水槽の底面では空気の塊は冷源から熱源に向かって真っ直ぐに進もうとする筈ですが・・・

 ここで重要となるのが、コリオリの力です。地球上で運動する物体には、地球の自転に伴ってコリオリの力という慣性力が働きます。いま、物体が速度u[m/s]で運動している場合、コリオリの力は進行方向の右向きに作用し、その大きさは「2Ωusinφ」で表すことができます(Ω:地球の自転の角速度[rad/s]、φ:緯度[°])。

 従って、実際にはコリオリの力が働くため、空気塊の軌道は右向きにねじ曲げられていきます。この結果、90°Nからスタートした空気塊の南下はおよそ60°Nまでが限界となり、この範囲に限定した鉛直循環を形成する事になると考えられます。


図5.ハドレー循環の形成メカニズム


 続いてハドレー循環の形成メカニズムを考えてみましょう。図5に示したように、当初の考え方によれば、水槽の上面では空気の塊は熱源から冷源に向かって真っ直ぐに進もうとする筈です。しかし、上記と同様に、実際にはコリオリの力が働くため、空気塊の軌道は右向きにねじ曲げられていきます。この結果、0°Nからスタートした空気塊の北上はおよそ30°Nまでが限界となり、この範囲に限定した鉛直循環を形成する事になると考えられます。

 以上の極循環とハドレー循環のように力学的なメカニズムで直接的に駆動される循環を直接循環と言います。これに対してフェレル循環のように二つの直接循環に挟まれる事によって結果的に新たな(見せかけの)循環として生じるものを間接循環と呼びます。

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温位=ポテンシャル温度・・・これは一体、何なのか?

2011年05月02日 | お天気のあれこれ
 そういえば・・・似たような言葉に電磁気学の「電位」がありますね。たまには真面目に気象学的な事も書いてみます・・・。

 まずは、空気塊を断熱的に持ち上げるとどうなるかを考えてみましょう。空気塊を断熱的に鉛直上方に持ち上げると、周囲の気圧が低下するのに伴って膨張します。このため空気塊自身の温度も低下していきます。この時に重要になるのが、周囲の大気の温度状態です。図1のように3つのパターンを考えてみましょう。空気塊が地上→1km→2km→3kmと上昇するのに伴って、空気塊自身の温度は30℃→20℃→10℃→0℃と低下していきます。


図1.大気の安定性


 空気塊自身の温度よりも周囲の気温が常に高い場合(a)は、空気塊は周囲よりも低温となるため、空気塊はもとの位置(高度)まで自然に戻っていきます。このような大気の状態を安定と言います。安定大気場においては、何らかの要因で空気が持ち上げられたとしても自然にもとの状態に戻ると言えます。

 空気塊自身の温度よりも周囲の気温が常に等しい場合(b)は、空気塊は周囲と同温となるため空気塊は自然にその位置に留まろうとします。このような大気の状態を中立と言います。

 空気塊自身の温度よりも周囲の気温が常に低い場合(c)は、空気塊は周囲よりも高温となるため空気塊はさらに浮力を得て自然にどこまでも浮かび上がっていきます。このような大気の状態を不安定と言います。不安定大気場においては、何らかの要因で空気が持ち上げられたとしても、そのまま空気は上昇を続けるため対流が起こりやすい状態にあると言えます。


図2.大気の安定性と気温減率


 周囲の大気の気温プロファイルを比較してみましょう。図2には、図1の安定、中立、不安定の各パターンにおける周囲の気温の鉛直プロファイルをグラフで示しました。横軸に気温、縦軸に高度をとっています。この図から、気温の鉛直プロファイルの傾きが中立の場合よりも直立に近ければ安定、中立の場合よりも横に傾いていれば不安定と言えます。すなわち、上空に寒気が入るほど、または地上気温が上がるほど、気温の鉛直プロファイルは横に傾きやすく不安定性が強まる、と言えるのです。

 以上の関係を数式で表すと次のようになります。

dT/dz < -Γd (不安定)
dT/dz = -Γd (中 立)
dT/dz > -Γd (安 定)


 ここで、Γd = g / Cp乾燥断熱減率と言います。

 図1で考察したように、空気塊が断熱的に鉛直運動をすると、周囲の気圧が変化する事に伴って膨張や圧縮をするので空気塊自身の温度も変化します。この事から空気塊自身の温度は変化の経路の影響を受けると言えます。しかし、空気塊の挙動は断熱的に行われるため、外界との熱エネルギーの授受は行われておりません。すなわち、空気塊自身が持っている熱エネルギーは常に一定に保存される筈です。このような、変化の経路の影響を受けることなく条件が決まれば一義的に定まるようなパラメータとして、気象学では次式で定義される温位(ポテンシャル温度)を使用します。これは、ある等圧面p上に存在する空気塊を、断熱的に基準気圧面p0にまで持ってきた時の空気塊の温度を表します。ちなみに、温位に近い存在としては、例えば、工業熱力学のエントロピー(dS = dQ / T)を挙げる事ができるかもしれません。

θ = T ( p0 / p ) R/Cp



図3.温位の概念


 ここでは温位の物理的な意味を考えてみましょう。図3には空気塊の断熱的な鉛直運動の際の温度と温位を比較してみたものです。両者の条件は等しいものであると考えています。空気塊が上昇すると、周囲の気圧低下に伴って断熱膨張するため、空気塊自身の温度は低くなっていきます。また、空気塊が下降すると、周囲の気圧上昇に伴って空気塊は断熱圧縮されるため、空気塊自身の温度は上昇します。その一方で、空気塊の一連の挙動は全て断熱変化であるため、外界との間での熱エネルギーの授受はありません。このため空気塊の温位は常に保存されています


図4.大気の安定性と温位減率


 続いて、大気の安定・不安定を温位を用いて考えてみましょう。図2では高度‐温度線図を示しましたが、図4には高度‐温位線図を示してみましょう。中立状態では温位が高度に関わらず一定となり、これより右側に傾けば安定、左に傾けば不安定となります。次に示す温位鉛直方向の温位傾度dθ/dzを考えると、以下のような関係が成立します。

dθ/dz = ( dT/dz + Γd ) ( p0 / p ) R/Cp

dθ/dz < 0 (不安定)
dθ/dz = 0 (中 立)
dθ/dz > 0 (安 定)

 
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熱変数の検討

2008年05月03日 | お天気のあれこれ
 気象予報士試験の勉強を始めたばかりの方々にとって、大きな壁となるのが「コリオリの力」「温位」と聞いた事があります。確かに、気象予報士の勉強を始めた頃は「温度」と言うパラメータがあるのに、何故わざわざ「温位」等と言う物理量があるのか疑問に感じたものです。とにかく試験に出るから、予報の現業で使っているから・・・まあ、しゃあないわ。そんな感覚で定義をそのまま暗記していたものです(最初はそれでも良いと思います)。

 あれから幾年が過ぎ、数値シミュレーションを自分で開発するようになってようやく、その意味が分かってきたような気がします。気象学とは異なる視点から、温位と言うものを考えてみると分かりやすいと思います。実際の複雑な大気現象を再現するために、小さなミニチュア模型を作る事をイメージすると捉えやすいように感じます。実際に模型を工作して実施するのが室内実験、コンピュータで仮想的に実施するのが仮想実験(シミュレーション)ですね。

 仮想的な室内実験として、キャビティの内部に乾燥した空気を充填させまた状態を想定してみましょう。下から加熱して、上から冷却すると、初期状態における温度の鉛直勾配は、(∂T/∂Z)<0となるため不安定となり、時間が経つにつれて鉛直対流が発生します。上から加熱して、下から冷却すると、初期状態における温度の鉛直勾配は、(∂T/∂Z)>0となるため安定となり、時間が経っても内部流体は静止したままとなります。(※上向きに正となるような鉛直座標をZとします)

 従って、小さな室内実験スケールのキャビティ流れを考えると

・(∂T/∂Z) < 0 ・・・ 不安定 ⇒ 対流が起こる
・(∂T/∂Z) = 0 ・・・ 中立  ⇒ 安定と不安定の境界線
・(∂T/∂Z) > 0 ・・・ 安定  ⇒ 対流は起こらない

と言う事は、想像に難くないと思います。

 ところが、実際の大気現象はと言いますと、大気が乾燥状態にあると仮定した場合は

・(∂T/∂Z) < Γd ・・・ 不安定 ⇒ 対流が起こる
・(∂T/∂Z) = Γd ・・・ 中立  ⇒ 安定と不安定の境界線
・(∂T/∂Z) > Γd ・・・ 安定  ⇒ 対流は起こらない
※Γd =g/Cp:乾燥断熱減率

となります(尚、符号の取り方によっては不等号の向きが逆になる事があります)。

 ここで注目したいのは、同じ温度Tであるにも関わらず、キャビティ流れと大気現象では中立の条件が異なると言う事です。すなわち、大気現象を解析するに際しては、温度Tに関しては、キャビティ流れと同じような感覚で扱う事ができないのです。数学的な取り扱いが異なるため、何らかの配慮をしなければならないのです(面倒くさいですね)。

 空気塊を断熱的に移動させた場合の空気塊自身の温度の変化を考えてみましょう。キャビティ流れの場合、内部の一部の流体部分を仮想的に空気塊として捉え、この空気塊をキャビティ内のどこに断熱的に移動させても、その空気塊自身の温度は変わらないと考える事ができます(つまり、この場合の温度は保存量と考える事ができます)。

 しかし、実際の大気現象では、空気塊を鉛直方向に断熱的に上下させると、周囲の気圧の影響により膨張・圧縮するため、その空気塊自身の温度は変化してしまいます(よって保存量として扱う事ができません)。この両者の特性が中立条件の相違として現れるのです。

 要するに、室内実験で扱う現象スケールでは、気圧は殆ど一定を見做す事が出来ます(無意識のうちにそのように扱っているのです)。大気現象スケールでは、気圧は大きく変化するので、空気塊の温度も熱エネルギーそれ自体に加えて、周囲の気圧の影響も加味しなければなりません。

 大気現象の数値解析は、実際の現象を模擬した小さな模型を仮想的に作って実験を行うようなものです。そしてその究極の基本はキャビティ流れに通じます。従って、大気現象における熱的効果を加味するに当たっては、実際の大気現象の温度(非保存量)を何とかして、キャビティ流れの温度のような形(保存量)と同じように扱いたいとの要請が発生します。

 この大気現象の温度をキャビティ流れのような室内実験の温度のように扱うためには、変数変換を行う必要があります。この変換されたパラメータが温位であり、この温位を用いる事により、実際の大気現象を室内スケールの模型と同じように考え、取り扱う事が可能になるのです。そんな訳で、私は数値シミュレーションの際には熱変数には「温位」を採用しています。
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モデリングの二つの考え方

2008年04月20日 | お天気のあれこれ
 一般的に「モデル」と聞くと、雑誌の表紙やグラビアを飾るファッションモデル等を連想する方が少なくないでしょう。ところで「モデル」を辞書で引いてみると・・・

(1)型。模型。見本。
(2)手本。模範。
(3)絵画・彫刻・写真などの素材となる人や物。
(4)文学作品などの素材となった実在の人物。
(5)ファッションモデルの略。

 理系の皆様は、この他に「自然現象を模式的に表現した形」の意味も加わる事でしょう。例えば、物理現象を模式的に表現した形も立派な一つの「モデル」です。これまでにも述べてきたように、物理現象の理論的な考察とは究極的には「分解する事」と「組み立てる事」に帰着します。物理学で学ぶ様々な現象に関する知識は、分解した時の部品(現象要素)の候補であったり、またはその部品を組み合わせるための指針です。

 数値モデルはその現象を再現する模型(モデル)をコンピュータの中に数値的に表現するようなものです。モデリングに際しては、大きく二つの方向性があります。それは、複雑な現象を複雑な状態のまま解く事を目指すのか、それとも与えられた現象を簡単化して解く事を目指すのかです。いずれにせよ、本質的な基礎理論が変わる事はありませんが、諸般の条件設定が異なってきます。

 前者の立場(複雑なまま解く)はより複雑な条件設定を必要とします。実に様々な部品を同時に連立して解いていくものです。また、局地風の流れも複雑であり、風のプロファイルなどを基に境界条件を設定しようにも複雑すぎて表現は難しいものです。実際のプロファイルを見ていると、例えば、上空は西風である一方下層では東風、といった具合に下層と上層で風の流れが逆向きになる事も少なくありません。分解と組立ての視点に立てば、複数の異方向流れが多重構造を形成している場であると考える事が出来るでしょう。

 一方、後者の立場(簡単化して解く)はより簡単な条件設定を必要とします。局地気象のある特定の現象の予測・解明を行うに当たっては、本当に必要な部品は何なのかを明確にし、それらを組み合わせて独自の理論を構築する事を目指します。局地風に関しても、全体的な流れの特徴を抽出し、その特徴を模擬した簡単な流れを新たに構築する事で、局地気象の再現を試みるのです。

 そのどちらがより良いのかを一概に断ずる事は出来ません。それはモデル構築の目的と手段、そして投入しうる設備やコスト、人員等の様々な設定条件が絡んできます。モデルを構築して何を実現したいのか、その根本的な問いかけに対する答えを真剣に考えてみる事が重要でしょう。

 ただ単に、安価なコストと手軽な操作により、超高速計算による高時空間解像度と高予測精度を誇る超精密・超精巧数値モデルが実現できる事は理想でしょう。もはや言うまでも無い事です。しかし、現実問題として見た場合にこれは無理な相談です。このような理想と現実の狭間に立って、その両者の折り合いをつけながら、限られたリソースと条件の中で最適な解決策を探っていく事は、技術者の使命です。
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高層天気図と上空の寒気

2005年12月29日 | お天気のあれこれ
 冬の大雪を予想する上で、上空の寒気の動きを把握することは必須となります。この時期の天気予報では「上空5000mで-30℃の強い寒気」と言った言葉が良く聞かれるようになります。このような上空の寒気は、ニュースや新聞で目にする天気図(地上天気図)では分かりません。上空の様子は高層天気図という資料を見ることになります。

 高層天気図は上空の天気図であり、地上天気図ではわからない気圧の谷や上空の風の流れや寒気・暖気の動きを知ることができます。地上天気図は海抜ゼロ(z=0[m])の等高度面における気圧分布を示したものですが、高層天気図は等圧面上(気圧が各々850,700,500[hPa] となる面上)の高度分布を示したものです。

 この違いのイメージを図にしてみました。地上には前線を伴った低気圧が解析されています。これは海抜ゼロ面(等高度面・平面)上の気圧配置です。そしてその上層の天気図は気圧が等しい曲面上の天気図になっていることがお分かり頂けると思います。

 気圧は空気の重さであるため、等圧面の高度の高い部分(ridge)は高気圧、谷底の部分(trough)は低気圧にそれぞれ対応しています。気象データを取り扱う上で、高層天気図の概念を理解することは重要です。

 冬の天気予報でよく用いられている指標は次の通りです。

・上空500hPa(約5000~5400m)で -36℃以下・・・大雪の目安
・上空500hPa(約5000~5400m)で -30℃以下・・・雪の目安
・上空850hPa(約1300~1500m)で  -6℃以下・・・雪の目安
・上空850hPa(約1300~1500m)で  -3℃以下・・・ミゾレの目安
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