用があったので、散歩がてら銀行へ行った。
その帰りに団地の中を歩いていると、「こんにちは」と声がかかった。
見ると、通りかかったお宅の息子さんが雪かきをしていた。
「こんにちは」の声は彼だった。
娘と年齢が近くて、小学校まではよく遊んでいた子で、我が家にも何度も遊びに来た。
素直でとても良い子で、大学を出て就職するまでは順調だった。
運悪く就職氷河期に当たり、道内は無理で東京の企業に就職した。
それが、1年しないうちに仕事を辞めて戻って来た。
お母さんによると、職場で精神的に追い詰められたたそうだ。
今で言う、過重労働だったらしい。
しばらくゆっくりさせて、こちらで仕事を探すわとお母さんがおっしゃっていた。
でも、職場でのことがよほどトラウマになっていたのか、
息子さんはそれからすっかり引きこもりになってしまった。
当然息子の将来を心配する親とは揉める。
ご近所さんによると、家から怒号が聞こえたり、パトカーを呼ぶ騒ぎが何度もあったそうだ。
長いこと外で姿を見ることもなかった。
今や両親は年金受給世代、
そのせいか、ここ数年、雪かきやゴミ捨てをする彼の姿を時々見るようになった。
でも、顔を合わせないようあらぬ方を見て通り過ぎる。
それが、今日、あちらから挨拶をされて、何だか感動してしまった。
顔つきが、以前とは全然違っている。
一人前の男の顔をしていた。
思えば、引きこもってから20年が経っている。
外へ目が向くまでに、それだけの歳月が必要だったのだろう。
「やまない雨はない」という言葉を思い出した。