その男は、私にとってとてもレベルの高い男であった。
その男は、口数は少ないが、とても雄弁であった。
その男は、どんな質問もじっくりと耳を傾け、有能なカウンセラーのようであった。
その男は、経済のこと、ビジネスのこと、教育のこと、体制のこと、環境のこと、女性のこと、男性のこと、子どものこと、欲望のこと、あらゆる質問に対して、的確に答えるのだった。
その男は、まるで観音様のように、笑みをたたえ、見守るのだった。
その男は、人の心をまるごと受け容れる度量があった。
その男は、私とは正反対であった。
その男は、クラシック音楽に造詣が深く、しかもそれをひけらかさない謙虚さがあった。
その男は、両親と家族をとても大切に思っていた。
その男は、自然への畏敬を抱いていた。
その男は、包み込むようなオーラで、守ってくれていた。
その男は、まさしく我が夫である。
今回、転勤が免れた。
またここで頑張らせてもらえる。
それは、私の役目でもあった。
私の役目は、私自信が頑張ることなのだ。
「仕事して!」「出世して!」「稼ぎを多くして!」
一度も言ったことはない。
私自身が、その土地その土地で行動することが、彼とのいいバランスを取っていると、勝手に思っている、身勝手な妻である。