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ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が新潟市で公園カウンセリングなどを相談、研究しています

中井久夫『こんなとき私はどうしてきたか』2007・医学書院-希望を失わないちから

2024年10月31日 | 精神科臨床に学ぶ

 2019年のブログです

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 中井久夫さんの『こんなとき私はどうしてきたか』(2007・医学書院)を再読しました。

 たぶん、数年前、大学院の精神科実習の頃に購入したのではないかと思いますが、その後、2種類の付箋が貼られていますので、読むのは今回で3回目だと思います。

 本の帯に、希望を失わない力、とあって、統合失調症の患者さんへの細やかで、丁寧で、それでいて、実践的な配慮が綴られています。

 もともとはある精神病院の医師と看護師の研修会での講義をまとめた本で、とてもわかりやすく述べられている点が特色です。

 今回、印象に残ったことを一つ、二つ。

 一つめは、妄想を語れる時期や独り言を語れる時期は、それまでの形のない恐怖に直面していた時期を抜け出した時にあたる、という指摘。

 とかく、妄想や独り言は否定的にとらえがちですが、肯定的な見方も提示していて、すごいな、と思います。

 二つめは、回復の度合いを、精神面でなく、身体面の診察で診るという視点。

 ともすると、患者さんは焦りもあって頑張りがちですので、それよりも、睡眠、寝起き感、食事(特に、味わえるかどうか)、口の渇き、便通、などなど、体の調子を細やかに検討することで、病気の回復具合がわかる、と述べています。卓見です。

 そして、三つめ。

 すごくびっくりしたのですが、中井さんも、シェイクスピアさんの『ハムレット』を引用していました(3回目でようやく気づくとは、自分のどんくささにあきれますが…)。

 それは、『ハムレット』にホレイショさんという誠実な家来が出てきますが、ハムレットさんとホレイショさんのあいだで、わからないことがいっぱいある、という命題が話題になるところを挙げて、中井さんは、ホレイショさんの原則となづけて、わからないことがいっぱいあるけど、でも、命にかかわるとはかぎらないよ、と話す、といいます。

 まさに、わからないことに耐える、わからないことを尊重する、というシェイクスピアさん、キーツさん、ビオンさん、メルツアーさんなどのさまざまな人たちの知恵の再現だと思います。

 考えれみれば、わからないことがあっても、それに動揺をしなければ不安にもなりにくいわけで、精神衛生は悪くなりにくいでしょう。 

 シェイクスピアさんはもっともっと大きなテーマも語っているような気もしますが、わからないことに耐える能力というのは、いずれにしても生きていくうえで、大なり小なり大切なことのようです。

 遅まきながらの大きな驚きにおおいに喜び、さらに勉強をしていこうと思いました。          (2019.2 記)

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 2021年1月の追記です

 中井さんも、わからないことに耐える、ことの大切さを挙げておられることに、この時にようやく気づいて、本当にびっくりした記憶があります(勉強不足を反省です)。

 あいまいさに耐えること、ネガティブ・ケイパビリティ(消極的能力・負の能力)の大切さです。

 さらに勉強をしなければ、と思います。         (2021.1 記)

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 2022年9月の追記です

 庄司薫さんの『さよなら怪傑黒頭巾』(1973・中公文庫)を再読していたら、なんとこのハムレットさんとホレイショさんの場面が引用されていました。

 大学1年生だったじーじは1回読んでいたのですが、素通りしてしまったようです。

 それでも、50年後に気づいただけでも偉いかな?          (2022.9 記)

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 2024年1月の追記です

 久しぶりに本書をぱらぱらと読んでいると、わからないことがいっぱいある、ということは、患者さんには新鮮な情報である、という記載に気がつきました。

 患者さんの妄想の一つに、みんなわかられている、というのがあって、それが否定されるのがホレイショの原則だというのです。

 中井さんはやはりすごいです。         (2024.1 記)

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 ゆうわファミリーカウンセリング新潟(じーじ臨床心理士・赤坂正人・個人開業)のご紹介

 経歴 

 1954年、北海道函館市に生まれ、旭川市で育つ。

 1970年、旭川東高校に進学するも、1年で落ちこぼれる。 

 1973年、某四流私立大学文学部社会学科に入学。新聞配達をしながら、時々、大学に通う。 

 1977年、家庭裁判所調査官補採用試験に合格。浦和家庭裁判所、新潟家庭裁判所、同長岡支部、同新発田支部で司法臨床に従事する。

 1995年頃、調査官でも落ちこぼれ、家族療法学会や日本語臨床研究会、精神分析学会、遊戯療法学会などで学ぶ。 

 2014年、定年間際に放送大学大学院(臨床心理学プログラム・修士課程)を修了。 

 2017年、臨床心理士になり、個人開業をする。

 仕事 個人開業で、心理相談、カウンセリング、心理療法、家族療法、遊戯療法、メールカウンセリング、面会交流の援助などを相談、研究しています。

 所属学会 精神分析学会、遊戯療法学会

 論文「家庭裁判所における別れた親子の試行的面会」(2006・『臨床心理学』)、「家庭裁判所での別れた親子の試行的面会」(2011・『遊戯療法学研究』)ほか 

 住所 新潟市西区

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竹田津実『オホーツクの十二か月-森の獣医のナチュラリスト日記』2006・福音館書店-北海道を読む

2024年10月31日 | 北海道を読む

 2015年のブログです

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 竹田津さんの2006年の本です。

 先日,ご紹介した竹田津さんの『北の大地から』を読み返して,とても良かったので,さっそくこの本も購入して読みました。

 この本も『北の大地から』と同じく,落ちついた文章と美しい写真が印象的です。

 文章はユーモアの中に静かな怒りがこめられていて,自然を愛する竹田津さんの素朴で素直な思いが伝わってきます。

 12か月の文章の中で私が一番印象に残ったのは,やはり子ギツネのヘレンのお話。 

 ヘレンは目,耳,鼻などの障害で,一人では(一匹というべきか?)生きていけない状態で竹田津さんがお世話をしますが,味方と敵の区別がつかず,竹田津さんご夫婦にもはむかいます。

 しかし,竹田津さんの奥さんが,ヘレンを抱いて子守唄をうたってあげると,なんと落ちついて眠ります。

 このエピソードは,子守唄と母性のすごさを感じさせらた一瞬でした。

 人間のすごさかもしれません。 

 しかし,こんなすごい人間が,竹田津さんが怒るような自然破壊もしてしまいます。

 冷静に,温かく,賢く,ゆったりとなどなど,バランスよく生きていきたいなと考えさせられる一冊でした。         (2015 記)

 

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