マーク・サンディーン『スエロは洞窟で暮らすことにした』

読む前の、表紙の印象から届くささやかな希望は、読後、やや失望に変わる。
表紙に写る穏やかな男の表情と、背景の茶色い台地、果てしなく白い空、そしてタイトルや著者名などの要素が、とても素敵で、ひっくり返して背、表4を見ても好きな気持ちが減ることはない。
原題は『THE MAN WHO QUIT MONEY』だが、『スエロは洞窟で暮らすことにした』の方がはるかにいい。
でもそれが、読む前にぼくを違った方向に導びいてしまったのだ。
洞窟で暮らすことに、自給自足のユートピアのようなイメージを持ってしまったのだ。
スエロの生き方に、共感できる部分は少ない。
お金を介在させない生き方は、つまるところ、周囲の人たちの好意に支えられている。
無駄なものは買わないなど、極力シンプルな生き方は実践できる。
でも、まったくお金を使わず、環境に負荷もかけない生活というのは、社会からこぼれてしまわないと難しいだろう。
社会の束縛から自由になろうと思うと、不自由な考え方に縛られる。
ただ、栞を本の頭からちょこっと出し、机の上に何気なく置いておくと、つい手に取りたくなる、魅力的に見える本ではある。
装丁は鈴木成一デザイン室。(2017)

