ケヴィン・ウィルソン『地球の中心までトンネルを掘る』

10代の終わり、いろいろな意味で不自由だった高校生活を終えると、規則や制約の支えがなくなって、気持ちのバランスが取れない時期があった。
目的を失い、何をしていても惰性で、ただ毎日を送っていた。
後から考えると、意味もわからず穴を掘っていたようなものだ。
表題作の「地球の中心までトンネルを掘る」は、大学を卒業したばかりの青年たちが、穴を掘り続ける物語。
彼らは、実社会で生きていくための心の準備ができていなかった。
両親は、そんな息子と友人たちを温かく見守る。
何をしたいのかさっぱりわからない、でも幸せになってほしいと願っている。
穴を掘るだけの彼らに、黙って差し入れをしてくれる。
しかし、経済的なことから、それがだんだん難しくなっていく。
穴を掘る生活に、終わりが近づいてきていた。
ほんとうのような嘘が並ぶ短編集。
現実にありそうだけれど、ちょっと違う世界。
そこには自分のような人がいる。
表紙の絵、穴を照らすライトの灯りが、ほんのり気持ちを暖かくしてくれる。
奇妙な物語ばかりだけれど、根は優しい。
装画は塩田雅紀氏、装丁は中村聡氏。(2015)
