ディーパ・アーナパーラ『ブート・バザールの少年探偵』

「インドでは1日に180人の子どもが行方不明になる」
帯の言葉は、ミステリーの導入として興味を引くためのもの。そう思って、この言葉の意味を深く考えもしなかった。
この言葉が、読後とても重い響きを持ってくるとは思いもよらなかった。
カバーに描かれたインドの町並みは、ごちゃごちゃしているが、どことなく寂しい。
紫の空は、昼なのか夕暮れなのかわからない。
最初に本を手にしたとき、タイトルの「少年探偵」から楽しげな物語を想像したのだが、イラストに陽気さが感じられないのはどうしてだろうと不思議に思っていた。
スラムに住む少年ジャイの同級生が行方不明になる。
警察は賄賂を受け取るだけで何もしてくれない。
ジャイは友人2人と、探偵になったつもりで探し始める。
精霊の存在を本気で信じる9歳。機転がきく子ではない。
親に内緒で、乗り方もわからない地下鉄で都会へ行き、同級生を探す。
冷静に考えれば、そんな簡単に行方不明の子どもが見つかるはずがない。
ジャイ自身が誘拐されそうになる。
スラムは、目の前が見えなくなるほどのスモッグにいつも覆われている。
不法に住んでいるので、いつブルドーザーで家が一掃されてしまうかわからない。
家計を助けるため、学校に行かず働く子どもがいる。
先の見えない生活に、無気力になってしまう大人もいる。
小説の形をしているが、インドの現実が見えてくる。
ジャイの子どもっぽさが、事態の深刻さを和らげていたことに、だんだん気づいてくる。
装画は長崎訓子氏、装丁は早川書房デザイン室。(2021)
