グアダルーペ・ネッテル『赤い魚の夫婦』

2つめの短編を読みながら、この人の小説をもっと読みたいと思った。
5つ全部を読み終え、さらに思った。もっと読みたい。
メキシコ生まれの作家が書く物語だが、舞台はフランス、アメリカ、デンマーク、カナダと広い。登場する人もさまざま。
表題作「赤い魚の夫婦」は、パリに暮らす若い夫婦の話。
妊娠中の妻がオレンジを欲っすると、これからお金がかかるのに贅沢だと夫は非難する。
たかがオレンジくらいで、なんでそんなきつい言い方をするのかと、妻は傷つく。
小さな齟齬が重なり、妻は不満を募らせていく。
子どもが生まれたあとも、二人の距離は広がるばかり。
妻は、飼っている金魚に、自分を重ね合わせる。
闘魚と呼ばれるその魚は、メスに求愛が受け入れられないとオスは攻撃的になるという。
妻はメスの恐怖、オスの傲慢さを感じる。
どこか病的にも思える妻の感覚は、ストレスが限界に達しているからだろうが、おそらく夫は気づいていない。
同じものでも見る部分が違うと夫婦はすれ違う。
きっとこの夫の視点で語られたら、何事もない平穏な日常なのかもしれない。
装画は澤井昌平氏、装丁は桜井雄一郎氏。(2021)
