ロビンソン本を読む

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ポリー氏の人生

2020-04-09 19:00:49 | 読書
H・G・ウェルズ『ポリー氏の人生』





 H・G・ウェルズの小説なのに「本邦初訳!」。

 帯のコピーを見て、いままで訳されなかったのは面白くないから、あるいは日本人には馴染めないからではと疑ぐる。

 冒頭「あーなーぼーこー!」と叫ぶポリー氏に、これはどうかな、ついていけるだろうかと心配になった。


 中年のポリー氏は、アホな穴ぼこに落ちたような人生を後悔している。

 消化不良に苦しみ、妻に当たり散らす、まったく好感が持てない人物だ。

 彼はときどき奇妙な言葉を話す。

 十分な教育を受けられなかったからだが、若い時に好奇心から、あえて間違った発音をしていた。

 「セスクイプルダン」

 「ラプソドゥース」

 翻訳なので、この後ろに小さく注釈が入るが、このカタカナ語がそもそも間違った、意味不明な言葉なのだ。

 あまりに多用するので、少し不愉快になってくる。

 ぼくがポリー氏を好きになれない理由のひとつだ。

 ところが時代を遡り、彼の若い頃が語られると、印象がちょっと違ってくる。

 ナイーブなのだ。

 純真な恋をするのだ。

 
 若い頃を知ると、好感が持てなかった中年男に、少し哀れみを感じるようになった。

 そして、ある事件以降、彼は大きく変わっていく。

 あんなに嫌いだった男が、最後にはちょっと好きになる展開は予想できなかった。

 
 装丁は緒方修一氏。(2020)