梅崎春生『つむじ風』
なんと軽妙な小説だろう。
右に左に揺さぶられ、どこに向かうのかわからない。
自動車に当て逃げされた青年を、浅利圭介が家に連れて帰るところから物語は始まる。
車のナンバーを覚えていた圭介は、これをネタに運転手を強請ろうと考える。
圭介は稼ぎがなく、妻に下宿人扱いされているほど要領が悪いのだが。
1956年の新聞に連載された小説。
テンポが良く、その当時新聞をとっていたら、毎日の楽しみになっただろう。
同じナンバーの車が2台あって、圭介と青年とで手分けして探りを入れる。
松平を名乗る青年の怪しさ、騙す話術の巧みさ、圭介のお人好し加減の可笑しさ。
そこに、敵対する2軒の銭湯の話も絡んできて、枝葉を広げすぎだろうと思ってしまう。
ところが、よく計算された展開の小気味好さにどっぷり浸る。
装丁はおおうちおさむ氏。(2022)