ピーター・スワンソン『アリスが語らないことは』
書店で表紙を見たとき、ピーター・スワンソンの新刊だとわかった。
アンティーク調の明朝体で、表紙の左右いっぱいに広げられているタイトルは記憶に残る。
創元推理文庫の『そしてミランダを殺す』『ケイトが恐れるすべて』に共通する文字組み。
アリスの現在と過去の生活が、交互に書かれている。
アリスの夫が岸壁から落ちて亡くなり、離れて暮らす先妻の息子に連絡を取るところから始まる。
事故だと思われていたが、やがて殺人の疑いが出てくる。
一方、過去のアリスは10代。
中年になった現在の彼女とは、違う人物なのではと思うくらい共通点が見えない。
大きく成長していく時期と、経験を積んで落ち着いた大人になった姿が異なるのは珍しいことではない。
ただこの小説に漂うきな臭さは、その変化の過程にあるように感じてしまう。
夫を殺したようには見えないアリスが語らないことは何なのか。
息子ハリーが、美しい継母に魅力を感じながらも、情欲に身をまかせず、父の死の真相を探る。
大学を卒業したタイミングで頼る父を失くした彼は、将来の姿をうまく描けないでいる。手探りで行動しながら、やがて明らかになっていく事実に立ち向かっていく。
過去の行動は現在に繋がっている。悪行は繰り返されるのか、それとも断ち切れるのか。
装丁は鈴木久美氏。(2022)