かつて個性的な編集方針を貫く月刊漫画誌があった。
名前を「ガロ」という。
由来は“我々の路”⇒“我路”⇒ガロ。
社是は、作家の独自性を最大限に活かすこと。
売れるマンガかどうかは問題にしなかった。
商業性を排除したため、発行部数はピークでも大手の50分の1。
漫画家に支払う原稿料も薄給。
だが「描きたいものを描ける!」と、多くの才能が集った。
「水木しげる」、「つげ義春」、「永島慎二」、「池上遼一」、「内田春菊」。
「蛭子能収」、「佐々木マキ」、「滝田ゆう」、「矢口高雄」、「小島剛夕」--- etc。
執筆陣を見渡すと、ビッグネームが並ぶ。
皆「ガロ」を足掛かりにデビューを飾り、漫画界を牽引して、
読む側、描く側のすそ野を広げた。
その白眉が「白土三平(しらと・さんぺい)」である事に異論はないだろう。
ほんの手すさび、手慰み。
不定期イラスト連載、第百五十八弾は「カムイ伝」。
そもそも「ガロ」誕生のキッカケは、
「白土」の新作忍者時代劇構想 ---「カムイ伝」を実現するため。
貸本漫画(※描き下ろしレンタル漫画)単行本を出していた出版社「青林堂」が、
斜陽を迎えた貸本スタイルに変わり、月刊雑誌を創刊。
昭和39年(1964年)7月、書店へ送り出した。
「カムイ伝」の舞台は、江戸前期。
階級社会の最下層にすむ人々の視点から、当時の生活・風習、差別の歴史・迫害等を描いた。
群像入り乱れる骨太のストーリー。
主人公の1人「カムイ」の秘術を駆使した忍者アクション。
青春と歴史ロマン、時代活劇など、見どころ多彩で、読みごたえ満点。
--- やがて「カムイ伝」は、カルト的な人気を獲得してゆく。
「新左翼系の学生」や「左派系知識人」と呼ばれる人達が、
“反権力”、“反差別”だとして、絶大に支持したのだ。
掲載誌である「ガロ」も恩恵にあずかるが、
「カムイ伝」の連載終了と歩調を合わせ、次第に下降線を辿る。
1980年代には、発行3,000部台にまで落ち込んだ。
殆ど同人誌?!とも言えるほどのマイナーぶり。
それでも、ノーギャラでも、作品を提供し続ける作家たちがいた。
そして、根強いファンたちもいた。
お陰で「ガロ」は20世紀末まで生き延び、
日本のサブカルチャーの騎手として、漫画史に名前を刻んだ。
オルタナティヴで、アンダーグラウンドで、アナーキー。
「ガロ」が放つ存在感は、まるで、孤独に戦う抜け忍「カムイ」を見る思いがする。
(※ガロ、21世紀も継続したが、版元の内部分裂、編集方針変更もあって割愛。)
(※カムイ伝、他誌で発表・スピンオフが出ているが、ガロの第一部連載に限定。)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます