その本が「早川書房」から上梓したのは2021年11月。
同年、同社主宰の「アガサ・クリスティー賞」で大賞受賞。
2022年「本屋大賞」並びに「高校生直木賞」大賞受賞。
2023年現在、紙・電子版の累計発行部数50万に迫る。
小説『同志少女よ、敵を撃て』は、正に“メガヒット”だ。
作品のテーマはいわゆる“独ソ戦”。
第二次大戦に於けるナチスドイツとソ連の地上戦は、
人類史上未曾有の犠牲者を出した戦いであり、
おそらく史上最も多くの女性達が銃を取った。
図らずもちょうど東欧で戦端が開いたことから話題を呼んだ本作。
既に手に取った方も少なくないだろうが、僕は先日ようやく読了。
実によくできていて読み応えがあった。
今投稿では、個人的に最も印象深いシーンを取り上げてみたい。
ほんの手すさび 手慰み。
不定期イラスト連載 第二百二十七弾「殺しの前に口づけを」。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/7e/10c6f22a8700cee1228afbc52fbc0548.jpg)
場面の舞台はソ連屈指の産業・文化の中心地、スターリングラード。
カスピ海に注ぐ大河・ボルガの下流域にあり、水運を利して発展した町は、
1942年に火蓋を切った攻防戦では「決戦都市」になっていた。
攻めるドイツにとっては絶好の補給拠点を確保することを意味し、
守るソ連にすれば“偉大なる指導者”の名を冠する絶対防衛拠点。
この要衝を制した方が戦いの趨勢を握る。
勝敗の分水嶺といえた。
緒戦、ドイツ軍は空襲と大口径火砲と戦車によって全家屋の85%を破壊。
殆どを手中にしたが、なかなか完全制圧には至らない。
ソ連軍と市民が瓦礫の影に潜み、抵抗を続けていたからだ。
地表も空間も障害物の多い環境下で機械化部隊の足が止まる。
そこで威力を発揮したのがスナイパー。
狙いすました一撃で敵の戦力を削った。
上掲拙作は、そんなさ中でのワンシーン。
辺りに銃声・砲声が絶えず、噴煙が立ち上る中、
かろうじて姿を留めたアパートの部屋で2人は口づけを交わし、
鼓舞し合い、必勝・必殺を期す。
(※【 】内『同志少女よ、敵を撃て』P230より抜粋引用)
【 出撃の前に四人はそろって互いに抱き合い、無事を誓った。
抱擁したシャルロッタと間近で目が合い、挨拶のキスをされた。
「一日一殺」とシャルロッタは言った。セラフィマもキスと同時に返事する。
「できれは二殺!」
視線を感じて振り返ると、部屋にいた大隊兵士たちが気まずそうに視線をそらした。
ロシア娘が挨拶にキスする姿など珍しくもないのだが、戦場ではそうでもない。
とりあえず明日からは見えないところでやろうと決めた。】
--- 誤解を恐れずに言うなら「美しく凄まじい儀式」だと思った。
作中、セラフィマの容姿についての描写は少ないが、おそらく美人。
何しろ物語の主人公だ。
モスクワ近郊の農村に生まれ、母娘で猟をしながら平凡な日常を送っていたが、
ある日、村を急襲したドイツ軍によって一変。
母も、村人も惨殺され、自らも射殺される寸前、赤軍の女性兵士に救われる。
たった一人生き残った彼女は、復讐を決意。
厳しい訓練を積んで狙撃兵になった。
一方、陶磁人形のような光沢のあるブロンドヘアに白く滑らかな肌。
シャルロッタの美少女ぶりを表す記載は、簡潔にして充分。
それもそのはず、彼女は元貴族のお嬢様。
革命後、共産主義国家では命取りになりかねない出自をひた隠し、
狙撃兵を養成する訓練学校に身を投じた。
彼女たちが所属するチーム「第三十九独立小隊」は、この時点で4人と2人。
(分類を別にしたのは理由があるが、そのハナシは長くなるため割愛)
ともかく、皆「キャラが立っている」のだ。
前述セラフィマ、シャルロッタ以外の登場人物も、
それぞれの生い立ちや思想、信念などが丁寧に描かれていて読み手が感情移入しやすい。
これは書き手「逢坂冬馬(あいさか・とうま)」氏の意図。
インタビューで次のように答えている。
(※『 』内 22年4月掲載/NHKオンライン記事より抜粋引用)
『 戦争を扱う小説は怖いから苦手という人や、独ソ戦を知らない若者、
戦争ものを読みたいと思っている女性の方、そういう人たちにも幅広く読んでもらいたかった。
いつも戦争小説を買っている人たちだけが読む作品だと、
なんか閉塞した感じになっちゃうと思ったんです。
だから普通の戦争ものとはアプローチを変えて、
キャラクターはちょっとやりすぎかなというほどポップで明るく、分かりやすくする。
文章はすごく平易にする。
この手法は当然賛否両論あるべきであって、
でも多くの人に読まれるんだったらこっちを選ぶべきだと確信があった。』
『同志少女よ、敵を撃て』は、エンタメであり戦記であり物語。
日本人が日本人の視点で、著者が著者の視点で書いたフィクションだ。
つまりは虚構なのだが、戦争の実像へ思いを致すキッカケになる。
一説によれば、4年に及んだ独ソ戦の死者数は、軍民併せ4000万に達するという。
ちなみに第二次大戦での日本人のそれは320万あまりで、アジア全体では2000万超。
これらの命を奪うために費やされたエネルギー資源の量はいかばかりか。
考えるだに空恐ろしい。
僕たちは時間を遡り、スターリングラードの戦場に身を置くことはできない。
生き証人が次第に減り、実感が薄れてゆく流れを誰も止めることもできない。
時が経てば経つほど、記録や数値に「血を通わせる」のは容易ではなくなる。
年表やデータの中に取り込まれ埋没した歴史を、想像力逞しくして追想する。
その為の手法として小説は適していると思う。
そして、改めて「今」を見詰め直してみる。
突然、町が廃虚になり死に直面したウクライナの市民や兵士。
独裁者の意向で隣国に攻め入り命を散らしたロシア兵。
やがて時の彼方に押し流されてしまう無名の犠牲者たちが、どんな目に遭ったのか。
戦後、生き残った人々が抱え込むであろう長く苦しい葛藤を記憶しておきたい。
同志読者よ、敵を撃て。
理性が銃弾の代わりだ。
標的は、身勝手で馬鹿げた行いをしたがる生き物「人間」の心である。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/b2/3b599c266c342edfcde8e2250763366a.jpg)
2014年からウクライナは自国内のロシア系住民の迫害・虐殺を行っていたようです。プーチン氏は止めるよう訴えていましたが、それが聞き入れられなかった。プーチン氏が善人だとは言いませんが、バイデンやゼレンスキーはそれこそ真っ黒ですよ。ゼレンスキーはウクライナ人ではなくユダヤ人なのとウクライナ政府はアメリカの息がかなりかかっているようです。確かバイデンの息子がウ国のガス会社の役員だったかと思います。
日本に多額の援助を集るのも恐らく戦争を続けたいからでしょう。ゼレンスキーは恐らく、日本から援助されたお金でアメリカやイギリス辺りから武器を買っているかもしれません。
日本政府もアメリカの息がかなりかかっていますから。大手放送局はアメリカに都合の良い報道ばかりです。
まとまりの無い駄文になってしまいましたが、僕はアメリカが一番悪どいと思っています。
国際政治は百鬼夜行。
どの国に対しても善悪の判定は難しい。
いつの世もその力を行使する現場で死んだ民草は、
ウクライナ国民もロシア国民も同様に不憫なもの。
本文中にも書きましたが、
その命を奪うために浪費したエネルギーは莫大。
戦争は命と資源の無駄遣い。
そうと考えます。
では、また。
戦争に興味がない若い人たちに手に取って貰うには成功してますよね。
あのラスト近くの怒涛の展開には驚きました。
私の感想も貼らせて頂きますね。
https://blog.goo.ne.jp/franny0330/e/43440a6b5500f3035e7ee6677b0a3c8e
コメントありがとうございます。
表紙に「雪下まゆ」氏を起用したのは、
出版社の意向か、作者の願いかは分かりませんが、
流石売れっ子イラストレーター、いい絵だと思います。
ストーリーもよく練られていて、面白かった。
本文中にも書きましたが、
この読書体験をした方々がこれを皮切りに、
考え、目覚め、興味を広げてゆけば、
いいと思っております。
では、また。