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孫崎享のつぶやき
[植草一秀―主権者国民と「米・官・業・政・電」利権複合体の死闘―]
植草一秀氏は自ら、「人物破壊工作によって社会的生命を抹殺された」と述べている。しかし、彼の日本論は極めて鋭い。一見に値する。『鳩山由紀夫 孫崎享 植草一秀 対米従属という宿痾』おわりにの部分で、植草一秀氏の書いた部分を紹介する。
人物破壊工作によって社会的生命を抹殺された私が、鳩山由紀夫元首相、孫崎享元防衛大学教授と共著を出させていただくことに戸惑いがなかったかと言えばウソになる。私が名前を連ねることが両氏に無用なご迷惑をお掛けしてしまうことに思いを馳せた。ただし、私自身は天に誓って無実潔白である。しかしながら、社会的にはいささか名誉を傷つけられた。二〇〇九年八月の総選挙で鳩山民主党は歴史的な勝利を収め、日本の歴史上初めて、民衆の民衆による民衆のための政権が樹立された。無血の平成維新の名にふさわしい新しい政権が誕生した。この政権が基盤を強化し、二〇一〇年の参院選で勝利を重ねれば、日本に新しい時代が到来していたはずである。しかし、主権者政権の前途は甘いものではなかった。日本の政治を支配し続けてきた既得権益である米官業のトライアングル、そして、その手先を含む米官業政電のペンタゴンは、事態の転覆に向けて猛烈な巻き返し工作に打って出た。このことを私は『日本の独立―主権者国民と「米・官・業・政・電」利権複合体の死闘』に記述した。現に、既得権益は民主党の小沢‐鳩山ラインが主導する主権者政権を転覆するために、文字通り、目的のためには手段を選ばぬ猛攻撃を繰り返したのである。その結果、鳩山政権は政権発足後、わずか九カ月足らずの短期間で幕を閉じた。そして、この期に乗じて菅直人氏が事実上のクーデター政権を樹立した。さらに後継の野田佳彦政権もその流れを引き継いだ。鳩山民主党が提示した主権者との契約であるマニフェストは片端から踏みにじられ、民主党政権失敗のイメージだけが明確に確立されることになった。否定されるべきは菅・野田民主党政権であり、二〇〇九年の鳩山民主党政権ではない。もちろん、鳩山政権が普天間移設問題の処理を結果として誤ったとの批判を免れることはできない。しかし、すべてを米国の言いなりに動くという被占領国日本のくびきを解き、アジアの一独立国日本としての矜持を持ち、尊厳ある国家としての日本を確立しようとした鳩山政権の基本姿勢は正当に評価されるべきものである。本書は、本来、二〇一二年に実施された総選挙に際して、鳩山由紀夫元首相が立候補することを念頭に置いて企画されたものである。しかし、鳩山元首相は立候補を見送られそして、その後には民主党を正式に離党される判断を固められた。出版を取り巻く状況は変化したが、鳩山政権の真実を世に問う必要性は変わらなかった。米官業トライアングルの既得権益は、日本の立場を堂々と主張する重要人物を警戒し続けてきた。孫崎享氏は、『戦後史の正体』(創元社)の中で、GHQによる占領時代に終戦処理費[米軍駐留費]の二割削減に尽力した石橋湛山蔵相が米国から警戒され、一九四七年の衆院選挙での当選直後に公職追放された事実を指摘される。GHQ=米国は現在に至るまでの戦後史の六八年において、一貫して日本の立場を堂々と主張する人物が、国民的人気を集め、脱米・自主独立のシンボルとなることを恐れてきた。これは、近年の日本で人物破壊工作に見舞われた人物たちと、完全に共通する図式なのである。小沢一郎民主党元代表が世界的にも類例を見ない苛烈さで人物破壊工作を受け続けてきたことも、そして、鳩山由紀夫元首相が不当な誹謗中傷の攻撃を受け続けていることも、この文脈の上で理解することが必要である。主権者のための政治がいま、既得権益の政治に完全に引き戻されつつある。そして何より、米国が支配する日本、米国に支配される日本の様相がより鮮明になりつつある。「日本の独立」が遠い彼方に消えかけているのが現状であると言わざるを得ない。本書は、このような時代認識、現状認識の上に立って、危機的と言わざるを得ない日本の政治状況を、もう一度、主権者の側に引き戻すために、新しい政治の潮流を築く上で不可欠な、鳩山、孫崎両先生にご登場賜り、日本の針路を改めて提示するために企画された。私は人物破壊工作によって社会的に傷を受けた身であるが、日本の現実を変革したいとの意志においては、人後に落ちない自負がある。日米関係が日本にとってもっとも重要な二国間関係のひとつであることを否定する考えは毛頭ない。また、日本が独立国として自国の安全保障を確保するために、明確な意志と行動をとる必要があることも当然のことである。しかし、このことは、日本が自主性も独立性も捨てて、すべてを米国の言うままに行動すべきだということを意味しない。米国への隷従というくびきを解き放つべきであるのかどうか。熟慮が必要であると思う。日本の情報空間が既得権益に支配され、既得権益に批判的な主張が封殺される傾向を強めている今日の日本で、今回の出版が受けるであろう風圧はもとより織り込み済みである。しかし、このようなときにでも、あるいは、このようなときであるからこそ、少なからぬ人々が、真実の情報を求めていることも、また、紛れもない真実である。真のインテリジェンスは単純な多数決を否定する。少数意見のなかに真実が存在することは歴史が証明している。