中東派兵 憲法の制約説明
海部氏「大戦で世界に迷惑」
外交文書公開
1990年の湾岸危機でブッシュ米大統領が海部俊樹首相に自衛隊派兵を要求した際、海部氏が日本のアジア諸国への侵略戦争の責任を強く意識し、「憲法の制約」を掲げて慎重姿勢を示していたことが、外務省が22日に公開した外交文書から明らかになりました。(関連記事)
外務省の90年9月30日付極秘電信によれば、イラクのクウェート侵攻に端を発した湾岸危機を受けた9月29日、米ニューヨークでの首脳会談で、ブッシュ氏は「日本の憲法上の制約は理解している。いかに実現されるかは承知しないが、日本が軍隊(FORCE)を中東における国際的努力に参加せしめる方途を検討中と承知するが、そのような対応が有益であること及び世界から評価されるであろう」と表明。多国籍軍への自衛隊参加を要求しました。
これに対して海部氏は「わが国は日米安保体制の下の過去45年間の平和になれている」とした上で、「日本人は第2次大戦の際に世界に多大な迷惑をかけたことから武力の使用または武力紛争への関与は行わない旨決意している」と述べ、これが「憲法の枠組み」だと説明しました。
その上で、海部氏は、非軍事組織の国連平和協力隊を創設し自衛隊員を一部参加させる「国連平和協力法案」に言及。「現時点においては非戦闘、非軍事のあらゆる協力を実現する方向で努力している」と述べるにとどまりました。
同法案は90年11月に廃案となりましたが、湾岸戦争の終結後、日本政府はペルシャ湾に掃海艇を派遣。90年代以降の海外派兵への突破口となりました。
海部氏は米側の派兵要求に対して、「憲法の制約」との妥協点を探ろうとしていましたが、憲法9条が改悪されれば「制約」は一切なくなり、無制限の海外派兵に道を開く危険を示しています。
「湾岸」利用し増額圧力
米軍「思いやり」・特別協定
外交文書
米軍思いやり予算(在日米軍駐留経費負担)をめぐり、1990年9月29日の日米の首脳会談や外相会談で、米側が湾岸危機を利用して増額や特別協定の前倒し延長を要求していたことが、22日に公開された外交文書に明記されていました。
ブッシュ米大統領は海部俊樹首相との会談で、「湾岸危機とも直接ではないが関連する案件としてHNS(米軍駐留経費負担)がある」と切り出し、「91年にHNSの一層の増額を実現できれば米議会に対する良い印になる」と要求しました。
海部氏は「最善の努力を払う」と約束。日本は最終的に、光熱費負担を新たに受け入れた特別協定の締結に応じました。
日米両政府は87年から駐留経費に関する特別協定を結び、92年3月までの期限付きで従業員手当を負担していました。もともと、思いやり予算は日米地位協定上も支払い義務がなく、特別協定についても「特例・暫定的な一時的措置」だと説明していました。
しかし、首脳会談に先立つ外相会談では、ベーカー米国務長官が「91年度におけるHNSの新規増がほとんどないと聞いているが、政治的にも米財政の観点という実際上の意味からも緊要だ」と述べ、増額の前倒しを要請。中山太郎外相は「年末に向けて努力する」と応じました。
日本は当初、湾岸危機と駐留経費問題は切り離して対処する方針でしたが、米下院が9月中旬に駐留経費全額負担に日本が応じない場合、在日米軍を毎年5千人撤退させる決議案を可決。圧力が強まっていました。
日米両政府は91年1月14日、日本がそれまで支払ってきた従業員手当に加え、新たに従業員の基本給や光熱費を負担する特別協定に署名。肩代わりする割合は95年度にかけて段階的に引き上げるとしました。
その後、特別協定は「特例的」どころか恒久化し、日米両政府は来年1月、さらに今後5年間にわたる協定の締結を狙っています。
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