海上自衛隊員が潜水手当を不正に受給した疑いで逮捕されたにもかかわらず、木原稔防衛相に8カ月間報告されなかった。シビリアンコントロール(文民統制)を損なう深刻な事態だ。防衛省・自衛隊は隠蔽(いんぺい)体質を改めなければ、国民の信頼を回復できない。
防衛省は12日、不正受給で海自隊員ら65人の懲戒処分を発表した際には逮捕に触れず、18日午後、立憲民主党によるヒアリングで逮捕の事実を明らかにした。隊員4人が昨年11月に詐欺の疑いで警務隊に逮捕されていたことを木原氏に報告したのは同日深夜だった。
隊員逮捕という重大な事実関係を自ら明らかにしないという姿勢では、隠蔽の意図はなかったと強調しても信用されまい。
文民統制は軍部が暴走した戦前戦中の反省を踏まえ、国民を代表する国会が実力組織である自衛隊の組織や予算、活動を議決し、文民で構成する内閣が自衛隊を指揮監督する仕組み。
木原氏は記者会見で、重要事項を防衛相に報告する「文民統制の要諦」が守られないなら「由々しきことだ」と述べ、文民統制が揺らいでいることを自ら認めた。防衛相への報告を怠ったことは国民に対する背信であり、防衛省・自衛隊は猛省すべきだ。
自衛隊の隠蔽体質は根深い。
陸上自衛隊の南スーダン国連平和維持活動(PKO)やイラクへの派遣を巡り、「ない」としていた日報が後に見つかった。いずれも派遣の継続に都合の悪い現地の治安悪化が記されていた。隊内のハラスメントでも、もみ消しや口止めが横行している。
不正受給問題は、特定秘密の不適切管理などと合わせて一斉に処分し、海自トップの海上幕僚長、隊員逮捕を木原氏に報告しなかった人事教育局長が退職した。火消しを急いだのだろうが、隠蔽体質が一掃されたわけではない。
衆参両院は30日、一連の不祥事を受けて閉会中審査を行う見通しだ。国会には内閣とともに文民統制を担う重責がある。自衛隊は国民の意思に基づいて文民が運用するという原則を再確認するためにも、審議を尽くすべきである。
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