内野光子のブログ
2023年11月11日 (土)
紫綬褒章の受章者はどのようにして決まるのか
「またまた、もういい加減にして」の声も聞こえるが、やはり、書きとどめておきたい。
俵万智(六〇)が二〇二三年秋の紫綬褒章を受章した。多くのマス・メディアには、彼女のよろこびの言葉が報じられていた。短歌関係の雑誌は、どう扱うだろうか。
紫綬褒章は、内閣府によれば、「科学技術分野における発明・発見や、学術及びスポーツ・芸術文化分野における優れた業績を挙げた方」に与えられるとある。
1955年に新設された紫綬褒章は、これまでも多くの歌人たちが受章している。近年では、2014年栗木京子、2017年小島ゆかり、今年の俵万智と女性が続いたが、1994年の馬場あき子以来女性は見当たらず、1996年岡井隆、1999年篠弘、2002年佐佐木幸綱、2004年高野公彦、2009年永田和宏、2011年三枝昂之、2013年小池光と続男性だった。女性が続いて、歌壇の現状がようやく反映されるようになったとよろこんはでいけない。
そもそも、受章者はいったい誰が決めるのだろうか。当ブログでも、「文化勲章は誰が決めるのか」の記事を何度か書いてきた。さて、紫綬褒章はどうなのか。
「褒章受章者の選考手続について(平成15年5月20日)(閣議了解)」によれば、根拠法は、なんと「 褒章条例(明治14年太政官布告第63号)」であって、「明治」なのである。 褒章の種類は、紅綬、緑綬、黄綬、紫綬及び藍綬で、受章者の予定者数は、毎回おおむね800名とし、春は4月29日に、秋は11月3日に発令する、とある。
「議院議長、参議院議長、国立国会図書館長、最高裁判所長官、内閣総理大臣、各省大臣、会計検査院長、人事院総裁、宮内庁長官及び内閣府に置かれる外局の長は、春秋褒章候補者を内閣総理大臣に推薦し、文書により、あらかじめ、文書により内閣府賞勲局に協議する。内閣総理大臣は、推薦された候補者について審査を行い、褒章の授与について閣議の決定を求める」となっている。
4月19日は、かつては「天皇誕生日」という祝日で、昭和天皇の誕生日であった。すでに知らない世代も多いのかもしれない。11月3日は、「明治節」、明治天皇の誕生日という祝日であった、のである。
なお、「栄典の手続き」による図解から、その手続きは、以下のようになる。要するに、各自治体及び関係団体、各省庁、内閣賞勲局の間で行ったり来たりしながら、内示の段階でほぼ確定ということになる。要するに、役人が選考しているので、「文書」にいくつもの押印はあったとしても責任は不問に近い。
以下、直近の受章者数、その中の紫綬褒章受章者、女性の割合を示し、選考過程の流れを図解してみた。
その点、少なくとも民間の、雑誌社やいろんな団体の歌人に与えられる賞は、選者や選考委員が明確ではある。その先のことは知らないが。
私は、かねてより、あたらしい憲法のもとでは、国家による勲章や褒章の制度を批判してきたし、結論的には不要と思っている。というより、法の下の平等に反するし、差別――人間のランキングを助長する害悪とも思っている。さらに、選考過程をみると、役人サイドで、綿密に審査がなされているらしいことがわかる。役人たちが、この人なら、「ハメ」を外さない、「安心安全な歌人」として、褒賞されるとみてよい。岸田内閣のような、閣僚、政務官選びの杜撰さとはわけが違うようなのだ。
2023年10月31日 (火)
「官報に載せるのを忘れてた」って! 文化功労者選考分科会委員
「官報」に載せるのを忘れてた?って、そんなことがあるのだろうか。
10月22日、「文化勲章は誰が決めるのか」を書いたあと、やはり気になって、今年の委員は誰だったのだろうと、毎年発表のある9月1日前後の「官報」をもう一度調べてみたが、見つからない。10月23日、「官報」掲載の日だけでも聞きたいと思って、ネットで見つけた文化審議会委員任命(文化功労者選考分科会委員を除く)の報道資料担当「文化庁長官官房政策課」に電話した。一緒に電子版「官報」を検索するが、わからずじまい。「担当の者が調べて電話します」とのこと。翌日、文部科学省の担当?から回答があったのだが、「たしかに、9月2日に任命されていますが、官報担当の者が、登載を忘れていまして、10月31日の官報に登載します」という。「ええ! そんなことってあるんですか。10月31日?」といえば、「ご迷惑おかけしました。担当の者への引継ぎがうまくいかなかったもので・・・。記者クラブの記者さんには報道資料として配布しているんですが」ともいう。1週間以上も先ではないか。任命からほぼ2カ月後になるなんて。これぞ、役所仕事、責任の所在はどこへやら。
2023年10月31日「官報」、浅川ひとみ(萩尾瞳)、天谷雅行、鍋島稲子、猪又宏治、木部暢子、塩見美喜子、清水玉青(有吉玉青)、寺井真実(片岡真実)、原久子、沼上幹、三島良直、村田善則とある。
そして、きょう10月31日の「官報」に、なるほど小さく載っていた。私が電話しなかったら、ずっと忘れていた?っていうことなのか。たった一日しか開かれない「文化功労者選考分科会委員」とはいえ、ずいぶんと軽んじられたものである。それもそのはず、“選考”との名の付くものの、役所のどこかで選ばれた“文化功労者”を承認するだけのこと。250万円の年金がつき、やがて”文化勲章“の候補者にもなる人たちの決め方なのである。メデイアも、文化功労者や文化勲章の受章者は、華々しく報道するが、どんな仕組みで決まるのかは、報道しないことになっているようだ。きょう「官報」に文部科学省人事として発表されたのは10名の委員の氏名のみ。「清水玉青」?、下の名前から、もしかしたら有吉佐和子の娘?報道資料には、肩書も記されているだろうが、私が知るのは、この人くらい。自分でもかなりしつこなと思いながら、委員の肩書をネットで調べ始めると、元大学学長から元野球選手まで、取り揃えていた。いわゆる政府の審議会の常連もいる。しかし、その決め方について、なるほどという記事を見つけた。当時の新聞記事を見過ごしていたらしい。前川喜平元文部科学省事務次官が、日本学術会議の任命問題に関連して、つぎのように語っていたのである。
政権にたてつく人間は排除し気に入った者は重用する。官邸のその姿勢を、私自身、じかに感じたことがある。
文部科学事務次官だった2016年、「文化功労者選考分科会」の名簿を官邸に持っていった。この分科会は文化審議会の下に置かれており、選考する文化功労者のなかから文化勲章受章者が選ばれることもあって、人事について閣議で了解をとる必要があった。 約1週間後、呼びだされて官邸に行くと、杉田和博官房副長官から、10人の委員のうち2人を差し替えるようにと指示された。「政権を批判する発言をメディアでしたことがあった」「こういう人を選んじゃだめだよ。ちゃんと調べてくるように」と言われた。(朝日新聞デジタル「前川喜平元次官が語る官邸人事 不当と違法の分かれ目は」2020年10月28日)
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