中野区のケースワーカー 1人で330世帯担当 標準(80世帯)の4倍超も
東京都中野区が高齢の生活保護世帯を援助する事業で、1人のケースワーカーが受け持つ平均世帯数が国の標準数(80世帯)を大きく上回る330世帯だったことが、困窮者支援団体「生活保護問題対策全国会議」(大阪市)の調査で分かった。事業に関する業務の多くが民間業者に委託されており、同会議は「違法な業務の丸投げだ」として、27日、事業の廃止を求める要望書を酒井直人区長に提出した。(中村真暁)
◆調査した支援団体「民間へ丸投げ」
2010年度に始まった「中野区高齢者居宅介護支援事業」で、生活が安定している1650の高齢者世帯の自立を支援する。区の正規職員である査察指導員1人とケースワーカー5人、委託先の14人が担っている。
本紙は福祉事務所を置く都と49区市に、最も多くの世帯を担当するケースワーカーの受け持ち数を聞いた。このうち都と43区市から回答があり、最少は73世帯、最多は241世帯。中野区の突出ぶりが明らかになった。
国は基本的に1世帯につきケースワーカーの年2回以上の訪問を求めている。同事業ではケースワーカーの訪問が年3300回必要になる計算だが、19年度は129回、20年度は103回で、対象世帯のわずか10分の1以下だった。区の担当者は本紙の取材に「(国が求める年間訪問計画を)19、20年度は作らなかった」と、対応のずさんさを認めた。
生活保護法は「保護の決定及び実施に関する事務の全部または一部を、行政庁に限り委任することができる」と定める。保護の決定、実施は「公権力の行使」にあたるため、民間委託はできないとする規定だ。
同会議は区への情報公開請求で、業務の仕様書を入手した。委託内容について「保護の決定を伴うものを除いた事実確認等」とあるが、▽生活保護利用者宅の訪問や面談▽記録のシステム入力▽保護決定に必要な書類の徴取―など保護の決定や実施に関わる可能性がある内容が記されていた。
区の担当者は本紙に「収入認定などは区がしており業者は公権力を行使することはない」と説明したが、同会議は「職員は書類に印鑑を押しているだけにすぎない」と主張する。
要望書提出後に会見した同会議の小久保哲郎弁護士によると、区側は「事業の違法性は認められない」とした上で「家庭訪問を見直し、人員を改善する必要性を認識している」と回答したという。
中野区の問題について、厚生労働省保護課の担当者は「事業へのコメントは控えたい。ただ、生活保護行政の一般論としては、行政として権力性を伴う業務は公務員がするべきだ」と話した。
◆「正規職員増員で対応を」
生活保護行政に詳しい明治大岡部卓教授(社会福祉学)の話 「最後のセーフティーネット」とも呼ばれる生活保護の決定と実施に関する判断は、国が憲法で保障する生存権に直接影響する。保護費の決定、実施変更にも関わる訪問などは、国が自治体に委任した法定受託事務のため、外部に委託できない。中野区の事業は生活保護の適正実施の観点から問題だ。生活保護利用者やケースワーカーの業務量の増加には、基本的に正規職員の増員で対応すべきだ。
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