開拓道具をデポしてからというもの土日のたびに雨続き。
今週の予報も金、土曜ともに雨、日曜日からは寒波が来るとなっている。
行くとすれば、今年最後の日は木曜(21日)しかない。そこで、19,20日の熊本出張の間隙を縫って、こっそり木曜日に代休を取った。
出張から帰ると、早速、開拓の準備を整え寝るも、運転の興奮冷めやらぬまま、よく眠れず3時半起床。大崩へと向う。
家を出るときの外気温は0度であったが、宇目を通過したときは国交省の電光掲示板は-5度を表示している。平地でこれでは、標高
1000mの小積の基部はかなりの冷え込みだろう。クライミングが出来るのか、かなり不安になる。
6時、林道着。ライトをともして6時半に出発。荷物は15kほどだろうか、先日、デポした分、助かる。
帰りのことを考えて、マーキングをしながら歩こうかとも考えたが、一人で乏しいマーキングを探しながら歩くだけでも精一杯。先を
急ぐ。
8時10分、小積基部着。
取り付き近くにはつららが下がっていた。
デポを回収し、9時より登り始める。この寒さの中、しかも携帯がつながらない山奥、そして平日。事故をすれば生還は難しいだろう。
落ちることは許されない。無理はせず、テンションを入れながら休み休み進む。下を見れば、進んだ距離はわずか、見上げれば終了点
はかなり遠い。やはり、1ピッチ50m近いとそうとうな時間がかかる。終了点にたどり着いて、懸垂で下りたときには2時間近くかかっ
ていた。
問題はこれから。ユマーリングをしながら荷揚げをしなければならない。昔、ユマーリングで痛めた左肘の後遺症がいまだにある。な
るべく左手に力をかけないようゆっくりと伸び上がる。7,8mごとに止まり、今度はホールバックを引き上げる。
終了点直下から撮影。高度感はかなりのもの。
ロープの先がかすむほどに長い1ピッチ。
これから重労働が待っている。
1ピッチ終了点から望む上湧の岩と小積の側壁
下湧。
10m向かいの岩。30mはあるか。
いいラインだ。これが下界にあればとっくに作られているはずだ。
終了点に着くと一息入れたいところだが時間がない。休むまもなく2ピッチ目のルート工作にかかる。凹角を15mほどあがると、2本、
平行に走ったクラックが現れた。以前、対岸から双眼鏡で確認した場所だ。1本は狭いチムーニ、もう右手にハンドサイズのクラック
が20mばかうり伸びている。しかし、上部で切れて5mほどのスラブになっている。可能性は薄そうだが、ここはやはり、右手にルート
を取りたいところ。ここを2ピッチの終了点とし、いったん終了点まで下降し、再び開拓キットを持ち上げる。
3ピッチ目のクラック。左は狭いチムニー。右はハンド
サイズのクラック。下開きの箇所まで行ったが・・・
いよいよ今日のメインの3ピッチ目の開拓に入る。カムでビレイ点を作って人工で上がっていく。5mほど上ったところまではなんとか
カムとあぶみを頼りに上って来れたが、そこからクラックがフレアーした箇所が続き、カムが効かない。そのカムに体重を移し、エイ
ドで進もうとするが一歩進んでは一歩後退。なかなか踏ん切りがつかない。荷物が少なく、かつ、ビレイヤーがいればフリーで乗り越え
られそうな気もするが、身につけたものが多く、どうにも身動きが取れない。しばらく試行錯誤したが時間ばかり過ぎていく。
ソロでの限界を感じる。あるこだわりがあって、ここまで一人出来たが、もうこの辺でいいだろうか。私の技術ではもうどうにもならな
い。そして体力の限界に近い。
次にくるとすれば、パートナーがいる。思い知った。いや、最初からわかってきたはずであった。
時計を見ると、すでに4時。これから下りて片付けすれば下山は6時か。帰りのアプローチを考えるとリミットの時間をとうに過ぎている。
1ピッチ進んだだけでもよしとし、下りることにする。
取り付きに戻ると、体が震えるほどに急に寒さを感じる。これまで、緊張感と恐怖感が寒さを凌いでいたのだろうか。寒さを感じずに動
いてきた。気温はかなり下がっているようだ。
ライトを点し、片づけを急ぐ。今度はいつ来れるかわからない。デポは最小のものにとどめ、半分以上は持ち帰ることにする。帰りの荷
物は重い。
5時半、下山開始。足元に気をつけながら歩いていると、すぐにマーキングのテープを見失った。もともとマーキングは少なく、踏み跡も
ない。覚悟はしていたが。後は勘を頼りに行くしかない。しばらく行くと赤いテープをライトが捉えた。ほっとして、しばらく進むと、
また、見失う。それを何度か繰り返し、やっと登山道に出た。
林道に置いた車に着いたのがに7時45分着。
行動時間13時間。車の移動を含めると18時間。いささか疲れた。明日、無事に職場にたどり着けるかどうか心配だ。