天と地の間

クライミングに関する記録です。

由布川渓谷 遡上

2011年10月07日 | 
前回、祝川を終えた後、次回は由布川に行こうという話が持ち上がった。由布川渓谷のことはわからないが、岩質は分かっている。凝
灰岩である。
大分では凝灰岩のことを灰石(はいし)という。字面の通り、阿蘇の火山灰が積もり、圧縮してできた岩である。当然、削れ易い。こ
の特長を生かして、古くから石材に利用されてきた。石橋、甲庚塔、地蔵、墓石など枚挙に暇が無い。大分はこの凝灰岩が多く、これ
を利用した文化財が点在している。代表的なものが臼杵石仏、国東の磨崖仏、院内の石橋等、その数は多い。
この岩、クライミングの対象にもなる。しかし、大分に限って云えば、お勧めできない。というより、よほどの目利きで無い限り、取
り付くのは止めておいたほうがよいだろう。かつて、臼杵にクラックルートを作ったことがあるが、今では消え去っている。凝灰岩は
柱状節理が多く、クラックが発達しているが岩が不安定で、ブロック状に積み重なったところもある。掃除も大変で、しすぎると落石
を誘発しやすくなったりもする。そういう理由から凝灰岩には手は付けないようにした。

話がそれてしまった。戻そう。由布川渓谷は凝灰岩であることから、岩が削れて水に溶け出したり、クラックの奥から土が流れ出たり
で、おそらく、水質は期待できなく、コケもあり、臭いもあるだろうと想像に難くない。WEBでしらべると、いささか水質には抵抗が
あるものの、それをおしても行くべき価値のある沢のように思えてきた。問題は入渓地点。両岸共に40mほど切り立っているために入
渓地点が限られるのである。逆に言えば、一度入れば脱出は簡単にはできないということになる。

計画では19日に行くつもりであったが、金曜日から雨が降り出したために、即刻中止。その後、二日間、大分では大雨洪水警報が出た。
当然、次の週も見合わせることにした。2週間目でもまだ水量は多いだろうと予想されるが、行くとすれば10月上旬が無難だろうと、
10月2日に入ることにした。

10月1日(土曜日)

4時頃より、白きりさん、ますもっちと入渓地点の偵察に行く。
記録では田代橋で入渓するのが一般的なようだが、下流のほうからだと、一日で抜けるのは難しい。それに水質も悪そうだし、さして
おもしろいところも無いようだ。ということで、渓谷橋と新田代橋の間、やや渓谷橋よりの岡という地名の場所に行ってみる。下りた
ところは田んぼになっており、道が無いかと右のほうへと回りこむと、消えかかりそうな藪道がある。これを下ると右下に沢がある場
所に出た。左側へ懸垂すれば降りられると確認し、キャンプ場へと引き上げることにする。途中、渓谷橋に寄り、見下ろすとすごい勢
いで流れ落ちる滝が見える。普段の水量は分からないが、明らかに増水しているようだ。

7時過ぎにyamaakiさんが合流し、明日の成功を祈って乾杯をする。
キャンプ場(きのこの里http://www.kinokonosato.net/)

5時に起床。目的地予定の椿、猿渡に車を二台配車ののち、入渓地点へ一台で向かう。
急坂の藪を下り、50mロープで懸垂で下りると、両側は垂直に切り立ち、閉塞感に包まれる。まるで地下水路のようである。昨今多くな
ったゲリラ豪雨にでもあったら逃げ場は無い。


入渓地点にて

天気予報では晴れであるが冷気が南下し、気温は13度とのことである。水温が気になるところであるが、水に入ると思ったほど低くは
なく、ほっとする。


流木越え。すべすべでやっかいな箇所だ。


まるで地下水路。


絹の幕のように落ちてくる滝。これはきれいだ。


カムをかませて這い上がる私。

30分ほど遡上したところで、深そうな場所が100mほど続いている箇所に出くわした。その先は曲がっており、視界は届かない。おそら
く、ここが「300mの泳ぎ」といわれる場所であろう。体力を消耗しないように背泳ぎでゆっくりと進む。


狭い箇所。水の勢いが増す。

200mほど泳いだあたりで体が冷えてきた。さすがに長時間、水の中に入っているとこたえる。泳ぎきって上がった時には震えがしばら
く止まらず、この先どうなることかと不安になってくる。この後も泳ぎを繰り返すうち、渓谷橋が上流に見えてきた。その先が第一の
核心である。私がトップで行くも、急流に流される。側面の岩のかちホールドにつかまって、しばし耐えて何度も前進を試みるも、流
される。この時、不覚にも喘いで水を飲んでしまった。ここでトップをしろきりさんと交代。同じく白きりさんも何度か流され、この
ままでは突破は難しいと判断。一度、休めるところまで戻って、装備を外し、靴も脱いで再度、試みる。あと少しというところまで漕
ぎつけば流されることを4,5回続けただろうか。そののち、流れの中に弱点を見つけて見事に落ち口まで突破。すごい泳力だ。続いて私
が引いてもらい、ショルダーで滝を越える。その後、ザックを引き上げ、白きりさん、ますもっち、yamaakiさんと続く。


しろきりさんと私。第一の核心で。
右壁の水の中にあるカチにつかまり耐えるが何度も流される。

渓谷橋を越えてからも泳ぐ箇所がいくつも現れる。ザックにたまった水を抜くために何度かがんだだろうか。そんなことを繰り返し、
昼過ぎに神社に上がる階段が見えてきた。神社へ渡る橋を過ぎ、30分ほどで今度は堰堤に設けられた階段のある場所へ来た。撤退す
るにはここしかないという場所である。ここで遅い昼食をとることにした。しかし、時間が気になる。食べ終わるとすぐに出発する。
30分ほどのぼると、滝の音が聞こえてきた。かなりでかい音にみこやしきの滝だろうと先を急ぎかけたとき、足元を見てゾッとした。
鹿の死体が横たわっていたのである。ガスでパンパンに膨らんでおり、色、形ともに完全に岩に同化していたために、気付かずに危
うく踏むところであった。それをやり過ごし、2,3歩いて、またゾッとする。「下流でこの水を飲んだ」んだと。
気持ちを切り替え進むとすぐに、みこやしきの滝の一部と思われる高さ2mほどの小滝が現れた。小滝といえども水量は激しい。私が
トップで必死に泳ぎ、滝の下部にたどり着くと、幸いなことに残置ハーケンがある。が、遠い。立ち泳ぎしながら手を伸ばすも届か
ない。何とか届いても、流れに逆らいながらの立ち泳ぎでは手元がぶれてビナがハーケンの穴に入らない。5度目、渾身の力を振り絞
って伸ばすとやっとのことで届いた。これにアブミを掛け、滝の落ち口のカンテをつかんで体を引き上げる。その時、視界に入った
滝を見て愕然とした。
瀑音と共にすさまじい勢いで水が斜め下へと噴出しているのである。これを見た瞬間、もはやこれまでと悟った。続いて上がってき
た白きりさんも唖然として見上げる。誰が見ても受ける印象は変わらないだろう。記録には滝の下部がハングしているとなっていた
が、それすら確認できないほどの水量である。近づくことも不可能だ。おそらく、これがみこやしきの実態だろう。この先は前人未
到といわれている場所だ。30年ほど前に八代ドッペルが越えたという話もあるが定かではない。

どこかに弱点が無いだろうかと、見渡すと、左の壁にリスが走っているのが見て取れる。右にはクラックが左上している。現実的な
のはそのクラックを使うことだろう。しかし、カンテを回りこんだ先が分からない。滝を越えたとしても下りることは無理なように
思える。というのも、みこやしきの滝のすぐ上部にもう一つのあるからだ。その上に立たなければ流されるだろう。かなりの困難が
予想されるが、とりあえず行ってみようと、よく見ると、下部にリングボルトが1本打たれている。それほど古くはない。誰か行っ
たのだろうか。出だしにカムをかませ、A1でボルトに移る。この岩質では効くかどうか不安があるが大丈夫なようだ。小テラスに上
がり込み時間を確認すると、3時との事。残り時間を考えると4人が突破するのは無理だろう。ギアも不足気味だ。残念だがここで撤
退することに決める。

堰堤に設置された階段にたどり着いたときは3時半。行動時間は8時間になる。その半分以上は泳いでいたように感じる。突破できな
かったこともあって、疲れた一日となった。


猿渡のつり橋
ここから、みこやしきの滝を上がったあたりが見える。


吊橋から見下ろす。
ゴルジュは狭いトイ状となっている。勢いが増すはずである。

上陸して。

ライフジャケット必携と書いている記録が多い。私と白きりさんは動きやすさを優先してライフジャケット無しで入った。その分、
浮力を慮って装備を絞ることにした。みこやしきの滝まではそれでなんら問題はなかったが、みやこしきを越えようとすれば、もっ
とギアを増やし、入渓する時間も早くする必要があると感じた。

泳ぎに泳いだ一日であった。
週末にこの秋一番の低温となったのもあるが、これほど長時間、水の中に入るためには、もっと寒さ対策を考えなければならない。
寒くなれば気力も落ちてくる。課題だ。







コメント (5)
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