天と地の間

クライミングに関する記録です。

また、由布川へ

2012年10月08日 | 
由布川、両岸の壁は高いところで50mを優に超える。そして、傾斜は下部がえぐれて反り返っている。川幅は狭い箇所で3m。当然薄暗く、
沢を遡行するというよりも、地底を進んでいるような錯覚になる。脱出口は少ない。岩質は凝灰岩。もともとやわらかい岩だがここほ
どもろい岩も珍しい。それゆえ、登るのは極めてやっかいである。残置のハーケンもボルトも効いていない。カムも、墜落を止めては
くれないだろう。墜落はできない。

水質は、下流が濁り、匂いさえある。上部に達するといくらかはましになるが、それでも他の沢よりは比べものにならない。地図を片
手にナビゲーションしていくという面白みはない。ただ泳ぎ、現れる滝をクリアしていくのみ。このことから、由布川を敬遠する沢屋
も多いだろう。
我々は、来るほどに歯がゆさが増してきた。はじき返されればされるほどに。決して由布川に魅了されたわけではない。唯一引き寄せ
られるものがあるとすれば、古い記録しかなく、先が分からないということ。

1度目は、一日の大半を泳ぎに費やし、「みこやしきの滝」に達したとき、ギアの不足と時間切れから越えることを残念せざるを得なか
った。

2度目、当面の目標であった「みこやしきの滝」を越え、「めくらの滝」に達することができたが、越えることはすぐさま、不可能と悟
った。この時、滝自体が記録とは大きく変わっていることにも気づいた。滝が変わるということは信じにくいが、ここ由布川ではありえ
る。
2度目のこの時は、11月上旬。首まで水の中に長時間浸かっていたこともあって、体は冷え込み、弱点を探す余裕すらなかった。水の中
での冷え込みは、闘争心をいとも簡単に萎えさせてしまう。冬壁の寒さとは異質だ。
一度失敗すれば、立て直すためには陸地まで撤退しなければならない。その距離、80mあまりを泳ぎ返すことになる。冷えた体では、再
チャレンジは難しい。
記録を調べてみると、由布川を解明するために、ボートを使ったと書いてある。先がわからなかったためだろうが、やはり長い泳ぎ
を強いられるために体力温存を考えてのことだろう。

3度目、水量は多いことは、覚悟の上で行った。予想通り、水量は多い上に、流れが大きく変わって滝に近づくと息もできず、取り付け
る状況ではなかった。

2度3度とはじき返されれば、歯がゆいのもあるが、いい加減、由布川を終わらせたいという気持ちが強くなってきているのが実情。今回
こそは、めくらの滝を越す決意できた。成敗の鍵はすばやく水から上半身を上げること。それに尽きるだろう。先のことはわからない。
情報がないから行けるのかどうかも定かではない。それがまた良いところであるが。

今日のメンバーは、白きりさんと二人。ふたりだとちょっと寂しいが遡行するには十分。
遡行は、敗退も成功もさして時間がかからないだろうと、10時に椿大橋で待ち合わせる。ここに、一台車を置き、椿の駐車場へ向かう。
夏はとうに過ぎているにもかかわらず、写真を撮りに来る人をちらほら見かける。これか、紅葉シーズンになれば、人出は多くなるだろ
う。


記憶にない大滝

入渓 11時15分。
ここにしては水がきれい過ぎる。ということは水量が多いことを意味している。いやな予感がする。水温も前回より低い。
5分ほど進むと右手に大量の水を落としている滝が現われた。まったく見覚えが無い。多分、前回通った折も流れていたのだろうが記憶
に無いのは水量の違いだろう。


今日は快晴。ここまでは明るいが。


まるで洞窟探検の様相。

さらに20分ほど進むと3mの覚えのある垂直の小滝が現われた。やはり、前回よりも水量が多く、この滝でさえも越えるのに一苦労する。
12時。めくらの滝手前の最後の陸地に到着。

ここで登攀用具を身に付け、水に入る。滝に近づくほどに轟音が激しくひびいてくる。滝が見える箇所まで来て、振り仰ぐと、前回より
もすさまじい勢いで落ちてきてる。今回もだめかと泳いでいると、滝の20mほど手前に水を透かして瀬が見えた。これは幸運。前回来た
時は足をつける場所は無かったものだ。滝ら落ちた砂が堆積したのだろう。そう考えると、これまでの水量が相当なものであったことが
想像できる。
瀬で小休止し、私が一番手で滝へと向かう。正面から右壁へと方向を変え、流れに逆らいながら必死に泳ぐ。壁のエッジにつかまり、呼
吸を整え、滝へと入る。


めくらの滝へと向かう白きりさん。
近づくのも一苦労。

水圧がすさまじく、呼吸が満足に出来ない。水面から上のホールドを探ろうにも水圧で手を押し戻される。水の中では動かせるが手探り
となる。この間、流されないために足は必死に漕がなければならない。そうこうしているうちに、ロープが足に絡まり、身動きできなく
なってきた。あぶない、一度退却することにする。
代わって、白きりさんが行く。同じく右側から回り込み、取り付くが同じように難儀している。5分ほど粘ったが戻ってきた。また私が行
く。あるかないか分からない見えないホールドを手探りで探すが、酸欠になり、またもや退却。7分ばかりしか粘れない。代わって、白き
りさん。またも同じように戻ってきた。


戻ってくる白きりさん。

不思議と水の中に入っていると、酸欠になるほど動いているためだろうか、寒さは緩和されるが、浅瀬にも戻って待機していると、震えだ
す。カロリー消費もかなりあるのだろうが、やはり、沢の水は体力を奪う。
3度目に行く前に、消費したカロリーを補うために、腹ごしらえをする。普段なら、しばらく時間を置くところが、じっとしていても体力を
消耗する。それ以上に気になるのが休むことによる気力の減退。
少量食べた後、10分ほどで向かう。
今度は、手探りで水中に掛のよいフレークを見つけた。これを手がかりに手を伸ばすが、粘るほどに喘ぐほどに水を飲んでしまい、力尽きる。
結局、一人5回はアタックしただろうか。腕力はもとより、泳力も落ち、近づくことも困難になってきた。
暗黙のうちに、撤退することにした。
午後3時半。椿の駐車場に帰り着く。「めくらの滝」へ向かう最後の陸地を蹴って、ほぼ3時間、滝に向かったことになる。疲労するはずであ
る。


意気消沈。帰りにて。

何度行ってもはじき返された。しかし、やるほどに根拠はないが行けるような気がしてきた。問題は水量。無論、そんなことはもとより承知で
春先に来るつもりであったがスケジュールが合わず、梅雨を迎えることになった。その後、梅雨明けしても降らない日はないという
ぐらいに降った。気象庁の言葉を借りれば、「かつて、経験したことがないような大雨」がこの界隈でも降った。やっと天気が安定するかと思
うと、今度は台風。水量が減る時期がなかったと言っていい。次回行くことがあるとすると水量が減る11月か。しかし、今度は寒さに耐えられ
るだろうか。
コメント
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