ここ数年、精神疾患の患者が急増しているとのことで、厚生労働省はがん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病の「4大疾病」に精神疾患を加えて「5大疾病」として、重点的に対策を進めていくことを決めたそうだ。
厚生労働省では平成19年から「4大疾病」の重点的な対策に取り組んできたがその後、精神疾患の患者が急増し、平成20年に行った調査では、糖尿病患者の237万人、がん患者の152万人に対し精神疾患は323万人と、いずれも上回った。また、年間3万人を超える自殺者のおよそ9割は何らかの精神疾患にかかっていた可能性があると指摘されている。
精神疾患とは脳(および「心」)の機能的・器質的障害によって引き起こされる疾患を言い、統合失調症や躁うつ病といった重度のものから、神経症、パニック障害、適応障害といった中、軽度のものまでの様々な疾患を含むとされている。これはやはり今の日本の社会には、個人に過度のストレスを与える要因が多いためだろう。まして、東北大震災やそれに伴う原発事故のような大災害があればストレスは非常に強く精神的にアンバランスな状態になるのは当然だと思う。
4人から5人に1人が一生のうちに何らかの精神疾患にかかると言われているそうだが、私も30代末から40代初めにかけて心臓神経症に苦しんだ。そのときの不安定で暗い気分は今も忘れられない。過労と人事に関しての鬱積した不満が引き起こしたものだが、休職したりすることもなく何とか乗り切ることができたのは、やはり生徒達がいたからだと思うし、幼い長男を抱えた妻の支えがあったからだと感謝している。
教員の精神疾患も多いようだ。文部科学省が公立の小中学校や高校、それに特別支援学校の教員を対象に調査したところによると、昨年度の1年間に病気で休職した教員は全国で8627人で、前の年度より49人増えたが、このうち、うつ病や適応障害など、精神的な病気で休職した教員は63.3%に当たる5458人で、前年度より58人増え、これまでで最も多くなったという。休職しないまでも常に心にストレスや悩みを抱えている教員はもっと多いだろう。
教員の仕事は夏休みもあり、時間が来たら家に帰れるし気楽なものだと思っている向きは少なくないようだ。特に企業に勤めている者にそういう傾向があるようで、現に私の長男はある機械メーカーに勤めていて、かなりハードな毎日のようだが、小学校の教師をしている弟の仕事についてはなかなか理解しないところがある。幼い時から部活動のため毎日遅く帰り、夏休みもなかった高校教師としての私を見て来たこともあって、それなりに苦労はあるものとは理解していたようだが、どうも弟のような小学校の教師に対しては世間並みのステレオタイプの見方があるようだ。
かつて教育委員会にいた時に新任の教師に話したことがあるが、教師は日常的に4つの集団に接している。1つは言うまでもなく子ども達、それからその親達、3つ目は自分のいる学校の教師集団、4つ目はその学校がある地域の人達だ。このように多くの集団に接していく仕事は他にはあまりないものだ。そしてその若い教師に、親をPTAの人などと思わないで、自分が預かっている子どもを育ててきた、いわば人生の先輩として接して、親と教師が協力して子どもを育てようという気構えが大切ではないかとも言った。
ところが、その頃にはあまりなかったが、今ではモンスター・ペアレントとか言う、事あるごとに担任や学校にクレームをつけ、時には教育委員会に訴えるぞと脅す親もいるから、若い教師は耐えられない思いをするだろう。教員が精神的な病気で休職する理由についてある教育委員会は、業務が増えたことによるストレスや、保護者や住民からのさまざまな要望や期待に応えることへの負担などを挙げ、若手の教員の場合は、最初に描いていたイメージと違い、自信をなくしてしまう傾向が強いとコメントしたそうだが、次男の話を聞いても近頃は業務が増えているのは事実で、それには教育委員会のあり方にかなり関係しているようだ。教育委員会にはしばしば学校長を通じて教員を管理することに力を入れる傾向があり、教員が伸びやかに子ども達に接することができるような環境を整えることには、なかなか目が行かないらしい。
教員に限らず、精神疾患に罹るのはその人間がひ弱だからだなどと決め付けることなく、十分に心のケアをすることが大切だし、何よりもそのような精神疾患を引き起こすようなパワハラの横行などの職場のあり方、雰囲気を改善していくことが必要ではないか。