蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

音楽が鳴りやんだら

2023年04月28日 | 本の感想

音楽が鳴りやんだら(高橋弘希 文藝春秋)


主人公の葵は、ロックバンド(ThursdayNightMusicClub)のボーカル。天才的な作詞・作曲能力を持つ。大手レコード会社のプロデューサー中田にスカウトされるが、デビューの条件としてベースの入れ替えを求められる。デビュー後は人気を博してツアーも盛況になるが、やがてドラムス、ギターもオリジナルメンバーから手垂れのミュージシャンに変更することを求められ・・・という話。

天才的だけど破滅的、大ヒットを飛ばせば飛ばすほど孤独になる、そんなロックシンガーの典型?を描いている。
文学的?表現が多くて、ちょっと戸惑うこともあったが、極端に偏屈な感じでもないので読みやすい。

私の好みだった「指の骨」とか文学賞を受けた「送り火」とはかけ離れた世界の話で、多少エンタメ寄りの要素を強めてみたのだろうか?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

プロジェクト・ヘイル・メアリー

2023年04月28日 | 本の感想

プロジェクト・ヘイル・メアリー(アンディ・ウイアー 早川書房)


主人公のライランド・グレースは優れた科学研究者だったが、学界を追放され中学校の教師をしていた。彼はある日謎めいた場所で目が覚める。そこは地球を遥かに離れた星界であり、彼は長期のコールドスリープから目覚めたばかりだった。
エネルギーを食べる生命体(アストロ・ファージ)のせいで太陽が衰え人類は絶滅の危機にあったが、近くの星系でタウ・セチだけはアストロ・ファージの影響がないことがわかり、一縷の望みを託されて地球からそこに派遣されたことが、やがてわかる。
グレースはタウ・セチで他の星系から、やはりタウ・セチを調査に来ていた異星人とめぐりあうが・・という話。

「火星の人」や「アルテミス」に比べてスケールが破格に大きくなって、ちょっと現実離れ感が強まったように思うが、現代の科学で法螺話(失礼)を、一応は納得できるように読者をひっぱっていく力技は健在。


本書では、ファーストコンタクトという新しいテーマに挑戦しているが、異星人との会話をどう成り立たせるのか?という難問に「もしかしてありえるかも」と思わせてくれるくらいのアイディアを用意していることが特にすばらしい。また、異星人の英語?も何だか愛しさみたいなものを感じさせてくれる。

底抜けのハッピーエンドで終わるのではあるが、そこにいたるまでの曲がりくねって長い道のりがとても楽しめる。

著者の作品を読むたびに思うのは、もともとのSF=空想科学小説って、こういうモノだったんじゃないか、というノスタルジー。小難しい哲学や抽象的な表現がなく、具体的でビジュアルなストーリーテリングは、SFというジャンル名称に本当にふさわしいと思わせてくれる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする