蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

こわれた腕環(ゲド戦記2)

2023年04月14日 | 本の感想

こわれた腕環(ゲド戦記2)(アーシュラ・ル・グイン)


多島海の東方?カルガド帝国のアチュアンでは大巫女が死に、その後継者として少女テナーが選ばれる。テナーは大巫女となるとアルハと名のり、その地位は帝国の大王にさえ脅かされないものとなった。アルハは神殿の地下に広がる大迷宮を探検し、そこに侵入者がいることを知る・・・という話。

ゲド戦記1は、ゲド(ハイタカ)が多島海をぐるりと経巡る話で、スケールの大きさを感じさせたし、冒頭に添えられた地図で航路をたどるお楽しみ?もよかった。
本書では、一転して舞台がアチュアンの神殿のみに限定され、狭苦しい迷宮をアルハとゲドがぐるぐる回る対照的な展開。冒頭の迷宮の地図?は戦記1のアースシーの地図に比べると、詳細さに欠け、話を読みながらたどることが難しいのは残念だった。

ファンタジーでは付属している地図が重要で、作品世界への没入感を高めるにはできるだけ詳細なものが望ましいと思う。

「炎と水の歌」シリーズの地図の出来のよさは印象に残っているし、グイン・サーガも刊が深まるに連れ詳しくなっていったのは、そういったファン心理をよく理解していたからではないかと思う。

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平場の月

2023年04月14日 | 本の感想

平場の月(朝倉かすみ 光文社)


印刷工場に勤務する青砥は、離婚して母親と暮らしていたが、母親は認知症のために施設に入って今は一人暮らし。検査に行った病院で幼なじみの須藤と再会し交際を始める、という話。

私は貧乏くさい話が好きなので、上記のような設定からして楽しめそうな予感がしたのだが、どうにもイマイチな感触のまま読了した。
多分、登場人物が、貧乏である自分を嫌悪し卑下しているのに、そこから抜け出そうとする意欲や努力の姿勢がほとんど描かれないことが原因かなあ、と思えた。
そういうありがちな展開はあえて避けたのかもしれないが。

 

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魔力の胎動

2023年04月14日 | 本の感想

魔力の胎動(東野圭吾 角川文庫)


「ラプラスの魔女」の続編。
怪我の影響でスランプになったスキージャンプ選手と、ナックルボーラーのために捕球イップスになってしまったプロ野球のキャッチャーを羽原円華が立ち直らせる前半2章が特に面白い。
かなり昔だが著者にはジャンプや野球を題材にした作品があるせいか(特にジャンプを描いたものがよかった)、ディティールに相応なリアリティが感じられるし、円華が超能力に(あまり)頼らない方法を採る筋立てもよかった。

後半の4〜5章は、「ラプラスの魔女」の前日譚。同書で登場した映画「凍える唇」の主役を巡るエピソードなのだが、同書では描かれなかった別の主題も登場する。
その主題をストーリーに絡めていく展開が実に上手で不自然さが感じられない。今更ながら著者の力に感心してしまった。

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冬薔薇

2023年04月04日 | 映画の感想

冬薔薇


渡口義一(小林薫)は砂利運搬船を運航する会社を経営している。船は老朽化し乗組員もベテランばかり。息子の淳(伊藤健太郎)は後を継ぐ気配がないどころか、学校にもロクに通わずフーテン生活をおくっていて義一は扱いに悩んでいた・・・という話。

淳をめぐるストーリーは予定調和をことごとく裏切っていく。「この手の映画だとこうなるだろうな」という予想は全く当たらない。

例えば、淳の属していた不良グループのリーダーは自己中心的なひどい奴なので、「きっとこいつは最後にひどい目にあうな」と思っていたら、そんなことは全然なくて、むしろラストでは意外な行動にでる。

淳の従兄弟は真面目そうな風体で塾の講師をしていて、淳の反面教師的な役割を演じるのかと思いきや、実は・・・などなど。

なので、ラストシーンはどう解釈すべきなのか、オリジナル脚本を書いた監督が見せたかった主題は何なのか、理解できずじまいだった。

一方、義一の妻(余貴美子。海運会社の実質的経営者)や船員(石橋蓮司、伊武雅刀ら)を巡るストーリーは典型的人情話風で安心して?楽しめた。

年老いたベテランで、身寄りがなくて船で暮らしている船員役の石橋蓮司もとても良かった(特に義一と酒を酌み交わすシーンがいい)が、圧巻なのは余貴美子で、もう、実際にいる人のドキュメンタリーを見ているようで、その存在感はすごかった。

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ラプラスの魔女

2023年04月02日 | 本の感想

ラプラスの魔女(東野圭吾 角川文庫)


温泉地で硫化水素中毒により映画プロデューサーが死亡する。結婚間もない年の離れた若妻が疑われるが、事故とされる。2ヵ月後別の温泉でも同じような事故が起きる。調査に赴いた地球化学研究者の青江は、両方の温泉で若い女性をみかけるが・・・という話。

著者名からしてミステリなんだろうと思って読んでいたら、実はSFだった。ちょっと謎解き(というか謎解きがないも同然)には納得しかねるものがある。

それでも終盤は「どうなるの?」感が盛り上がって読むのがやめられないのだから、著者の人気が衰えないのも無理はない。

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