落合順平 作品集

現代小説の部屋。

「舞台裏の仲間たち」(6)   第二章(1)初日の出

2012-08-28 10:18:29 | 現代小説
アイラブ桐生Ⅲ・「舞台裏の仲間たち」(6)
  第二章(1)初日の出





 「そういえば、姉さんはどうしたの。
 姿が見えなかったけど。」


 「ちづる? 気になるの。
 そうだよねぇ、あんたも皆も姉さんばっかり見ていたもの。
 私はチビだったし、そばかすだらけで
 あんまり愛想は無いし、
 姉さんほど、スタイルも良くなかったもの。
 無理はないか・・・
 離婚の調停中よ。
 他に聞きたいことは?」



 「あれ? 気に障った。」


 「別に・・・」




 頬をふくらました茜が、仕方ないもんねと、ため息をひとつ漏らしてから、
膝に置いたバッグの中へ手を入れ、煙草の箱を取り出しました。
綺麗に塗り直された赤い唇に一本目をくわえると、こちらには目もくれず、はいと無造作に手渡しました。
車のシガーライターを人差し指と中指、薬指の3本をきちんと綺麗に揃えながら、奥までしっかりと押しこみました。



 「・・・変わってないね、その癖。」



 「あら、わたしのことで、
 覚えていてくれたことが、残ってたんだ。」


 「覚えているよ、
 そのシガーライターを押しこむときの癖も、
 シャネルNo.5の香りも。
 それから、お姉さんよりも胸が小さいと
 いつもこぼしていたことも、みんな覚えているさ。
 それから・・・」



 「もういい。
 聞けば聞くほど落ち込むわ。
 それよりも運転を代わってくれない?。
 軽自動車ならどうってことはないんだけど、図体がでっかいと
 乗せてもらうのにはいいけれど、
 自分で、転がすとなると、
 どうにも気持ちが落ち着かなくて不安なの。」



 「酔っ払い運転になっちまうけど、
 それでも、いいかい?。」



 「かまわないわよ、少しくらいなら。
 そんなことよりも、もう眠いだけなの。
 深夜勤務が続いたから、ペチャパイの乙女は少し、寝不足なのよ。
 そこ、止めるわね。」



 そう言って滑り込んだのは、桐生市から水戸へ向かう国道50号線沿いにある、裏筑波のドライブインでした。
年が明けた午前1時過ぎに桐生を出てから、ここまでの約2時間、茜は真剣に
前だけを見て運転をしてきました。


 どうせ初詣をするのなら思い切って、
茨城県の大洗(おおあらい)海岸で、初日の出を見ようということになりました。
茜のアパートの部屋へ寄って荷物を簡単にまとめてから、一路、国道50号線を東へ向かって暗い道を走り始めました。
終夜営業の茨城県・裏筑波のドライブインでは、たぶん同じ目的で東に向かうのであろうと思われる、群馬県や
栃木県ナンバーの車が、駐車場を半分ほど埋めていました。


 「居るのは、
 ずいぶんと歳が若い連中ばっかりだな。
 俺たちが歳年長組かな・・・」



 駐車場の様子を見渡してから、酔い覚ましもかねて、外の空気を吸いに降りることにしました。
勢いよくドアを開けた降りてきた茜が、あっというまに車を半周して、私の背後へ飛びついてきました。



 「おいおい。
 お疲れで、胸の小さい反抗期の乙女は、
 もう、寝る予定だろう。」


 「もったいない!。
 若い連中に、これ見よがしに見せつけてやろうよ
 こういうのが、渋い大人のデートだぞって。」



 「・・・あれ?
 初日の出を見に行く予定が、
 いつのまに、デートに昇格したのかな。」


 「細かい事はいいの、何でも。
 とりあえず、売店をのぞきに行きましょうか。
 寝る前の、腹ごしらえもしとかないとね。」



 「おっ、色気より喰い気だな。」


 「あのねぇ・・・
 はるばる裏筑波くんだりまで、
 喧嘩をするために、やって来たわけじゃないのよ。
 カチンとくることばっかり言わないで、もう少し優しく物事を言ってよ。
 そりゃぁまあ、お姉ちゃんみたいに綺麗じゃないし、
 時絵ママほどの気遣いはできないけれど、
 茜だって、女だよ。
 まぁいいか、
 女としての魅力に欠けるのは、私の怠慢だもんね。
 そんなことよりも、
 明日と明後日にそなえて、
 たっぷりと食料を調達をしておきましょうね!」



 「ん、ちょっと待て。
 それって・・・もしかすると、
 長期戦になるかもしれないっていう意味か?。」



 茜が悪戯っぽい笑いを見せてクルリと一回転をした後、
軽くスキップをしながら終夜営業の売店へと消えて行ってしまいました。
こうして始まった茜とのドライブですが、そのまま茨城県から海岸線を下り、房総半島を一周して
結局、正月の3日まで旅は続いてしまいました。







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