映画館がようやく再開し、3ヶ月半ぶりに劇場に足を運びました。最初見るのに選んだ作品は、J・C・リーの戯曲「Luce」を原作とするサスペンスフルな社会派ドラマ。Black Lives Matter がムーブメントになっている今見るのにふさわしい、見応えのある作品でした。
白人の養父母をもつアフリカ系の高校生ルースは、オバマの再来と称えられる文武両道の優等生。しかし、同じアフリカ系の教師ウィルソンは、彼が書いたレポートに危険な思想のにおいをかぎ取ります...。
ナオミ・ワッツ、ティム・ロス、オクタヴィア・スペンサーと、主人公を取り巻く俳優たちの演技を楽しみにしていましたが、期待通りにすばらしかった。ルースを演じる若手実力派のケルヴィン・ハリソン・Jr. もすごくよかったです。
教師ウィルソンが起こしたさざ波から、4者4様の葛藤や疑念が徐々に露になっていく課程がみごとで、すさまじい心理的駆け引きに、びりびりするような緊張感を味わいました。元は戯曲と知って、なるほどと納得しました。
ウィルソンが出した歴史上の人物になりきって書くという課題に、ルースがアフリカの革命家フランツ・ファノンを選んだことが事の発端ですが、私はそれこそがウィルソンの偏見と思いました。
テキサス州のイスラム系少年が時計を自作して学校に持っていったら、それが爆発物と勘違いされて警察に拘束された、2015年の事件を思い出しました。(AFPBB.com) (彼は誤解が解けて、その後オバマ大統領にホワイトハウスに招かれましたが)
ウィルソンは、これまでにも黒人男子生徒のデショーンや、アジア系女生徒のステファニーを標的にしてきましたが、どうしてマイノリティの彼らばかりを陥れようとするのか。
ここから先は、あくまで私の個人的な推測になりますが、ウィルソンは、同じカラードとして彼らに歪んだ嫉妬心を抱いているのではないか、と思いました。
彼女自身、アフリカ系として子どもの頃からきっと血のにじむような努力をして、よきアメリカ人になろうとし、優秀な教師という今の地位を築いてきたはずです。でも彼女には病気の姉がいて、そのことが常に不安として彼女に重くのしかかっていました。
それで、これから無限の可能性が広がっているルースたちを、表面では応援しつつ、心の中ではそうはさせるものかという、暗い嫉妬の感情が渦巻いていたのではないか... ふと、そんな風に感じてしまいました。(あくまで個人の感想です)
ルースは、生まれ持った名前を捨て、文武両道、人格的にもすばらしい理想のアメリカ人となることが、自分が幸せになる道だと信じてきました。白人エスタブリッシュメントの級友と違い、カラードの彼らは一歩道を踏み外せばやり直しができない。
彼は立派な黒人を代表することの重責を担い、時に葛藤を感じることもあったのではないでしょうか。本作、オバマ元大統領の感想も聞いてみたいと思いながら見ました。
アフリカ系アメリカ人の監督ならではの視点で作られた本作は、現代のアメリカがリアリティたっぷりに描かれ(母エイミーのキャラクターとか、アメリカあるあるでした^^)、シリアスながらも楽しめました。