アメリカ同時多発テロ後に秘密裡に行われた、CIAによる容疑者拷問問題を描いた、Amazon Studiosによる2019年の社会派ドラマ。日本では劇場公開されず、現在Amazon Prime Videoで配信されています。
骨太の社会派ドラマが好きなので気になっていた本作、Amazon Prime Videoにあると知って探して見ました。私がニューヨークにいた頃に、米軍によるアブグレイブ刑務所での捕虜虐待事件が発覚し、衝撃的な写真が今も脳裏に焼き付いていますが
同じ頃、CIA も残酷極まりない方法でテロの容疑者たちを拷問していたのです。アメリカの上院情報特別委員会によって2014年12月9日に公表され、明らかになったこの事実は、ダイアン・ファンスタイン上院議員のもとで長年調査に取組んできた
ダニエル・J・ジョーンズという調査員がまとめた6000ページにも及ぶ調査報告書がもとになっています。映画でダニエルを演じているのはアダム・ドライバー。「大統領の陰謀」(All the President's Men) に匹敵する、見応えのあるすばらしいドラマでした。
私がこの映画を見て最も衝撃を受けたのは、人間はこれほどまでに残酷になれるものなのだろうか、ということです。どういう拷問なのか、私からはとても言えませんが、この拷問プログラムを考えたのは、ミッチェルとジェッセンという2人の心理学者です。
そして身体的、心理的にとことん痛めつけ、死に至らしめても、何一つテロを防ぐのに有益な情報を得ることはできなかったのです。しかもイスラム系というだけで、何らテロと関係のない市民までもが捕らえられ、犠牲になることもありました。
これはテロを未然に防ぐという名目を借りた、組織的な人体実験ではなかったのか、と思わずにはいられませんでした。
ダニエルはCIAの協力が得られない中で、膨大な文書を読み解き、わずかな糸口から丹念に情報を集め、積み重ねていきました。調査員の中には、何年間も拷問問題と向き合い続けても出口が見えない中で、耐えられず去っていく人もいました。
また、調査結果がなかなか日の目を見ない中で、ダニエルに接触し、リークするようささやく新聞記者もいました。
ダニエルは、リークしてでも国家の不正を明らかにすべきだという正義感と、正当なプロセスを踏んで国家を追求しなければ、単なる裏切り行為となってしまう、という2つの感情の中で揺れ動きます。
CIAは拷問によって重要な情報を引き出せたと自らの残虐行為を正当化していますが、それらは全て事前にわかっていた情報でした。映画「ゼロ・ダーク・サーティ」では、CIA が拷問によってビンラディンの情報を得たように描かれていましたが
決してそうではなかったのですね。何も知らずに、ヒロインに肩入れして見ていた自分が恥ずかしい。「ゼロ・ダーク・サーティ」がTVのニュース番組で称えられ、それをダニエルが横目で冷ややかに見やるシーンが心に残りました。
ダニエルたちの調査報告がなかなか公表できなかったのは、政治的な理由もありました。ダニエルが信念を貫き、それがようやく公表という形で明らかになった事実には安堵しましたが、その後CIAの犯罪は追及されたのか、割り切れない思いが残りました。