熊本県現代俳句協会 会報 2021年度 第2号
現代俳句くまもと 第17号
「まわるまわる時代は回る」
熊本県現代俳句協会会長 加藤 知子
まわるまわる 時代は回る ~~~
生まれ変わってめぐり合うよ
ときどき口ずさむ、中島みゆきの名曲「時代」の一節です。これを聴くといつも、作詞作曲できたらいいなあと思いますが、最短詩型の俳句の表現活動もまた、困難な人生において殊更に、活力を与えてくれるように思います。
中村汀女は、先の大戦下、「三月十日東京空襲、B29幻の如く美し」という前書きをつけて、「火事明りまた輝きて一機過ぐ」と詠み、「炎天や早や焦土とも思はなく」とも詠みました。
台所俳句と揶揄気味に評される汀女俳句ではありますが、こういう句を書いていたことを最近知り、驚きました。過酷な事実の描写にも、詩人の眼は誠実に反応し、心情の純粋な吐露に向かわせました。汀女のこの句に対して不謹慎と非難されることもあるようですが、本当に悲しみの極限にあるときとは、このような真空状態なものといえましょう。2016年の熊本地震のときも、「もう笑うしかない」という人の声を聞きました。
このようなことは、芭蕉の「喪に居る者は悲しみをあるじとし、酒を飲むものは楽しみをあるじとす」という言葉に通底することだと思えます。すなわち、負の世界に十分に浸ることに拠って、正の世界へ転じる、ということ。
俳句にもこういうことができる力のあることを教示してくれる先達に、感謝したい気持ちになります。
第2回紙上句会を始めます!
投句締切: 7月 31日
投句先: 吉 良 香 織 宛
郵送またはメールにて受け付けます。
参加費:会員・準会員は無料
会員外の方は、投句とともに84円切手5枚
を同封してください
◎5句まで投句可能です。(1句でも受付可)
皆さま、積極的にご参加ください。
熊本県現代俳句協会創立30周年記念
合同句集から
一 句 評 (到着順)
梅の漬け方コロナ禍の過ごし方 真弓ぼたん
平行に二つが置かれた日常である。コロナ禍は非日常だと思っていたが、人類の、いや地球の歴史からみれば日常なのだと気づかされる。今年の梅に語りかけながら、何ごとにも逆らわずに生きるだけ。それが難しい。 (評者:西村楊子)
素麺を啜る音のみ誕生日 伊藤 健二
「糶り人」と題され、作者の生身から絞り出されたような十五句の中の一句。肉体労働を終え、静かに一人祝う誕生日。冷水の中の素麺が美しく、哀しい。喉の辺りがキュッと締め付けられるような、生の切なさ。 (評者:西口裕美子)
夜行列車きれいに蛇の穴渡る 加藤 知子
夜のトンネル?を「蛇の穴」と見立てたのか。夜行列車の窓から洩れる明かりが、徐々に消えて行く様は、正に大人の童話。人の命が終わる時も、このようなものかも知れない。ある日突然、人はきれいに向こう岸に渡って行く。 (評者:林よしこ)
かなかなや己の髪を嗅ぐ少女 青島 玄武
この中七下五は現実感が濃いが、不潔な感じがしないのは「少女」の行為だからであろう。
晩夏の頃の髪は汗の香りか、プール帰りの洗い髪か。季語が場面に広がりを与えている。作者の細やかな観察眼と的確な表現技術を感じる。
(評者:吉良香織)
梨を剥くこの山のこの風に住み 荒尾かのこ
もちろんこの句は自分を詠んでいる。が、読者もまるでそこの住人のような錯覚を覚える。「この山のこの風」と畳みかける言葉に、これまで決して楽なことばかりではなかったろうと、推察される。今あるのは、そういうことも含めての現在である。作者は穏やかで豊かな余生を楽しんでいる。
(評者:真弓ぼたん)
新樹光形見の一本も混る 寺尾 敏子
合同句集のあとがきのように昭和迄の感情は古典の域にあるようで私の感覚もアナログ世界で廻っている。紙上でずっと憧れてきた先輩の句は、常に颯爽として軽やかで前方に光を見せてくれる〈生き生きと死ぬつもりです実むらさき〉もそんな一句。
合同句集のあとがきのように昭和迄の感情は古典の域にあるようで私の感覚もアナログ世界で廻っている。紙上でずっと憧れてきた先輩の句は、常に颯爽として軽やかで前方に光を見せてくれる〈生き生きと死ぬつもりです実むらさき〉もそんな一句。
(評者:丘菜月)
盲いたわれらのいのちもつれる秋の水 西口裕美子
文明病で盲目になった人類は、今、新型コロナとかいう化物にふりまわされ、絶滅の危機にさらされているようだ。秋の水よ、せめて人類の未来の姿をその清冽な水面に写してみせてはくれまいか。
(評者:榮田しのぶ)
猟犬が魂を消す四丁目 徳山 直子
ペットとして歩く犬。猟犬として人間のそばにいることになったのだが、時代の変遷とともに獲物を追うこともなく、新興住宅街をリードをつけられて歩く。かつて山野だった地も四丁目という新しい町名を与えられて。
(評者:中山宙虫)
第27回全国俳句コンクール(全国俳誌協会主催)
参加作品抄
春の空大きく描く設計図 林よしこ
振り仮名のゑはうは恵方はるのそら 西村楊子
宿の灯の消えたる街や寒椿 徳山直子
藪椿の藪のそだちや陽の匂い 加藤知子
句集紹介
西口裕美子句集『群青い耳』
(文學の森、2021年5月)
よろず一斉に耳尖らせよ梅ひらく
鳴き終えてこおろぎ群(あ)青(おい)い谷探す
気化という選択もある秋の昼
新会員紹介
荒尾市在住の林紀子さんが、7月から現代俳句協会に入会されました。昨年度の熊本県民文芸賞川柳部門一席を受賞されており、川柳歴13年、俳句歴は6年ということです。
にんげんの奥へおくへと冬の霧
わらべ唄月の匂ひになる母と
『 現代俳句 』 列 島 春 秋 掲載句 2021年
二月 臥龍梅とんで異郷の鬼となる 木庭杏子
三月 野焼きして阿蘇に集まるあまのじゃく 田上公代
四月 若き日は知らんぷりした桜の国 加藤知子
五月 二天忌や背後から来る己の声 榮田しのぶ
六月 青天の天に挿したる余り苗 徳山直子
七月 崩落の岸に桑の実供物とす 志賀孝子
お 知 ら せ
◯ 現代俳句協会の年会費未納の方は、お振込みをお願いします。
◯ 準会員更新の方は、年会費千円をお願いします。
◯ 第58回 現代俳句全国大会
令和3年 10月30日の予定。
投句用紙は、6月と7月の『現代俳句』の巻末に挿入されました。
同封の投句用紙を使われても大丈夫です。
当協会 創立30周年記念 合同句集の
一 句 評 募 集
好きな句とか共鳴句とかあれば、
引き続き一句評(100字以内)を募集中。
事務局までご送付ください(メール可)。
次号の会報に掲載したいと考えています。
色々とご不明な点は事務局まで
お気軽にお問合せください。
*吉良さんの住所とメールアドレスは個人情報のため
このブログでは削除しています。
また内容はテキストのみです。
*会員の皆様には昨日あたりお手元に届いていると思います。
7月4日の古墳館からの帰り道
鷺!?ですか~
トラクター(?)を怖がりませんね。