茂里美絵第一句集『月の呟き』(2018年、現代俳句協会)
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p12、極彩の落葉もありて悲痛なり
13、夜の新樹葉っぱそれぞれが個室
17、煙る日を盾として母の夏逝けり
21、冬の窓指紋は弱弱しい星だ
23、梟のひとみに光る漂泊や
27、修行僧夏暁という薄衣
31、呪のごとき月を不眠の友とする
43、夕凪や粥の気泡は疲労のような
44、火口湖に降る銀漢の水こだま
48、放心の頬に風花神の素手
58、風花や死んだあとまで旅をして
76、春寒の葉っぱのような歯を磨く
103、山独活やひとは旅をして無口
113、薄紙をはがすたび虹近くなる
118、寝返りを打つ白桃の皮がするっと
130、頬杖も飛翔のひとつ春の月
137、棒ですか泥酔ですかこの毛虫
149、夢想とは白木蓮のゆっくり散る
152、草いきれ皮膚は牢のようでもあり
160、乾杯のグラス林立風邪心地
162、寒紅梅絵本とじるようまぶた
162、地の底に火と水はあり白木蓮
193、遠い水見ている夕餉の桜守
194、白鳥帰るまひるの傷のように水
197、ほたるかご月の呟きも通す
198、しずかなる氾濫金魚の泡に泡
206、陽炎や膝抱く少女息わすれ
207、リラ薄暮さみしいときは辞書を引く
208、麦秋や翼持つものみな一途
216、セーター脱ぐ岸辺に鳥を放つごと
226、夢に父寒紅梅と睦みおり
作者の茂里美絵さんを思ったとき、白木蓮のような人だと思う。
夢想とは白木蓮のゆっくり散る
集中にも白木蓮の句は多い。冬の眠りから覚めた、白木蓮の花が開く直前の膨らみは、まだ眠たそうで、ふわぁーとしていてちょうど掌で抱え込めるくらいだ。だが花びらは、純白で傷がつきやすそうでいて、まっすぐ上を向いて開く。このような咲き方は、繊細そのもので手を触れるのが憚られるくらい。とはいえ、花の終わった芯にはしっかりとした実がすっくと立つ。
草いきれ皮膚は牢のようでもあり
乾杯のグラス林立風邪心地
地の底に火と水はあり白木蓮
麦秋や翼持つものみな一途
火を秘めつつ水のようにクールに見える作者が、日常の生活の中で事あるたびに抱く違和感は、俳句という形式によって捉えられ、翼を広げて昇華される。同時に一途さも表出される。
しずかなる氾濫金魚の泡に泡
私にとっては、「海程」と「拓」の先輩。
まだまだ花開く一途さは終わらないお方だと思っている。
御句集のご恵贈ありがとうございました。
また、『遊牧』(塩野谷仁主宰)No125にて、第2句集より拙句<一枚一枚白百合の激白>の句評を書いてくださり、誠にありがとうございました。
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