[注釈]
*d'apre`s ce qu'il y a de plus inconstants, de plus insaisissables... : 先行詞 ce にかかるde plus +形容詞は、最上級表現を表しています。
* Chose assez curieuse,… : 以下のセンテンス全体を説明しています。
[試訳]
その形態と色彩において最も移ろいやすく、もっとも捉え難いもの、つまり波や雲を、手早く、といっても忠実に素描したこれらの習作には、そっと添えるように、日付と時間と風がいつも描かれています。たとえば、10月8日、正午、北西の風といったように。もしあなたが、都合よくこのすばらしい気象図を見る機会に恵まれたのなら、ブーダン氏の観察の確かさを確認することもできるでしょう。たとえキャプションが手で隠されていたとしても、あなたには時間、風が読み取れることでしょう。これは誇張ではなく、私にはわかりました。夢幻を誘う、光り輝くこれらの雲。この混沌とした闇。互いに途切れ、また重なる、この緑とバラ色の広がり。大きく口を拡げて燃えさかる釜。黒の、あるいは紫の繻子がよれ、広がり、あるいは裂かれたような蒼穹。荒涼とした、あるいは溶けた鉱物が輝くような地平。仕舞には、この深み、この煌めき、こうしたすべてが、私の脳髄には強い酒のように、阿片による多弁のように映る。かなり奇妙なことに、この水と空の魔法を前にして、それでも一度としてそこに人影がないことを、私は不満に思うことはなかったのです。
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いかがだったでしょうか。一枚のタブローに想像力をかき立てられた大詩人の文章、難しかったですね。それでも、ぼくにはこうした骨のある文章をたま追うことは、心地良い読書ともなりました。
shokoさん、お茶大らしいシンポジウムのお知らせ、ありがとうございました。詩人野村喜和夫のお話など是非聴いてみたいものです。ぼくは詩の忠実な読者ではありませんが、それでも何年かに一度、現代詩や試論を手に取ってみたくなります。つい先日も渡邊十絲子『今を生きるための現代詩』(講談社現代新書)を大変興味深く読みました。現代詩の実作を、現代詩に初めて触れる読者の視点を大切にしながら読み解いた現代詩入門です。
その一章でしばらくぶりに安東次男の名を眼にし、日本語の可能性を繊細に切り開こうとする氏の詩作を懐かしく反芻しました。そう、いつか安東の労作、『評釈芭蕉俳諧七部集』を読んでみたいものです。これも自分に課した楽しみな宿題です。Mozeさん、また芭蕉体験のご報告を聞かせて下さい。
さて、夏休み前最後となるテキストですが、この週末には、今度はスマートに(?)お目にかけるつもりです。Shuhei