フランス語読解教室 II

 多様なフランス語の文章を通して、フランス語を読む楽しさを味わってみて下さい。

Patrick Modiano (1)

2014年12月10日 | 外国語学習

[試訳]
 十数冊のあなたの本がたった一巻にまとめられたら、妙な気持ちになるでしょう。今まで、一冊一冊の本が、それを書く時には前作のことを消し去っていました。私自身がその存在を忘れ去ってしまっていたような感じを持っていました。つまり自分の後に残して来たこれらの「物語」を振り返ること、読み返すことを避けて来ました。まるで綱渡りをする人のように。綱渡りは何がなんでも前進しなければなりません。ためらったり、後ろを振り返ったりでもすれば、落下しかねないのですから。
 モーリス・ブランショがいみじくも言ったように、作家は、綴り字や文章の誤りを訂正するときを除けば、自身の作品の読者にはどうしてもなれないのです。書物がひとたび完成すれば、それは作家の手を逃れ、真の読者のために書き手のことなど顧みないものです。読者とは、書き手よりも書物をよりよく理解し、ある化学反応によって、作家自身に書物の真の姿を明かす者のことです。
 それでは、はじめてこうしてまとめられた「物語たち」について、私に何か言うことがあるでしょうか。ほとんど何もありません。これらの物語は唯一の作品を形作っていて、ここに収められなかった他の作品の脊柱となるものです。私はそれらを断続的に、書いたはしから忘れて来たつもりでいましたが、まさしく同じ相貌が、同じ名前が、同じ場所が、同じフレーズが、それぞれの作品に帰って来ています。まるで半ば眠りながら織ったタピストリーの模様のように。
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 l'epine dorsal ですが、こういうときはgoogle でimage 検索すれば手がかりが得られます。ぼくも授業中に時々お世話になっています。ただし、猥雑な物も時に混じっているので注意は必要ですが…。 
 今回は、特に付け加えることもなく、試訳のみご覧にいれます。
 なお先日7日にストックホルムで開かれた受賞記念講演の模様が下記で見られないでしょうか。長いものですが、この「序文」の内容と通じる箇所をいくつも含んでいます。講演の閉じ方が、なんともモディアーノらしく、微笑みを禁じえませんでした。
 http://abonnes.lemonde.fr/livres/video/2014/12/07/suivez-en-direct-le-discours-du-prix-nobel-de-patrick-modiano_4536151_3260.html
 ウィルさん、本当にお久しぶりです。こうやって再会すると、この教室も長い間続けているなぁ、としみじみ実感しました。またお時間の許す限りでおつきあい下さい。
 それでは、次回は24日に残りの部分の試訳をお目にかけます。
 Bonne lecture, mes amis ! Shuhei