[試訳]
怒りの声を上げる前に、今一度、砂浜に横たわり、深い眠りについたあの子の目をまっすぐ見つめてみよう。あんなに華奢な体つきでも、両手はまだ赤ん坊のようにぽっちゃりとしている。浜辺でぐったりとした顔はおだやかでも、肺は海水で膨れ上がっている。最後にもう一度だけあの子の恐怖を想像してみよう。あの子は闇の中、冷たい、まっ暗い海に落ちた。流されまいともがいたけれど、ついには海の底に飲み込まれてしまった。海水が彼の肺を最後にはいっぱいにしてしまうまで、喘いでいたはずだ。そして、罪深い無関心から私たちを目覚めさせ、多くの人々を人間的に揺り動かしたのだった。今問われているのはもう怒りではなく、人々が同胞に抱くべき、人間愛の、連帯の覚醒である。男たちの、女たちの、子供たちの命が賭けられているのだから。
目下集団的な無関心と他人事のような憤りが冷たく渦巻く21世紀が、諦めと冷酷の世紀となってしまわないよう、立ち上がろう。もう何人のアイラン・クルディが海に沈んでしまったのだろう。ヨーロッパが立ち上がるまで、いったいあと何人の犠牲者が必要なのだろうか。虐げられたこの人々を私たちが助けることができなければ、難民問題を解決できなければ、21世紀の私たちの文明は、取り返しのつかない形で、人の道を失ってしまいかねない。
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misayoさん、Mozeさん、訳文ありがとうございました。今回も、ぼくから付け加えることは何もありません。試訳を読んでまた不明な点があれば、お尋ねください。
西アジア・中東から欧州を目指す人々の難民問題は、解決の糸口すら見つからないまま、フランスを含めヨーロッパは冬を迎えました。ひとりでも多くの人々に温かい食事が提供されることを願うばかりです。
そんな中、残念な報道がありました。
http://www.directmatin.fr/monde/2015-10-08/japon-un-manga-sur-une-jeune-refugiee-syrienne-fait-polemique-713017
先日朝日新聞でも遅れて報じられた内容ですが、苦難に耐えている人々の本当の痛みにまったく想像が及ばず、そんな人々がわすかばかりの援助に縋ろうとすることすら許せない人々が、この日本にもいるのです。残念なことです。
ところで、先日、ある医学研究者が、度あるごとに再読する書物として茨木のり子『詩のこころを読む』(岩波ジュニア新書)をあげていたのが目に留まり、ぼくもこの年になって同書を読んでみました。扱われている詩の豊かさと多様さは言うの及ばず、茨木さんの語り口がなんとも魅力的でした。奇遇ですが、伊藤比呂美さん編であらたに、石垣りん詩集が岩波文庫から出ました。これも是非読んでみようと思っています。
年内に読むことをお約束したロラン・バルトの文章ですが、週末までには皆さんのもとにお届けします。Shuhei