![]() | スウェーデンはなぜ強いのか (PHP新書) |
北岡 孝義 | |
PHP研究所 |
鳥取・島根の記録的豪雪の被害が報道されています。
これには去年の猛暑の名残で日本海の海水温が高いことが影響しているとのことで、「たまたまこの冬は雪が多かった」のではなく、まさに進行しつつある気候変動の現われだと見てまちがいなさそうです。
そうしたなか、あらゆる面、という表現を使いたくなるくらい、現代日本の政治、経済、福祉、教育、医療、そしてそれらすべての基礎である環境に対する対策などなどが混迷しているさなか、それらすべてについてかなり巧みに対処しているように見えるスウェーデンにしだいに注目が集まるようになっています。
去年の後半から立て続けにスウェーデンに関する本が出版されていて、そのうち3冊を購入し、2冊は読み終えました。
その1冊、北岡孝義『スウェーデンはなぜ強いのか--国家と企業の戦略を探る』(PHP新書)について、簡単に紹介しておきたいと思います。
この本は、まさにタイトルどおりの本です。いま日本が混迷しているいろいろな点についてなぜスウェーデンは強いのか、うまくやれているのか、その概要がよくわかる好著です。構成は以下のとおりです。
第1章 今日のスウェーデン
第2章 高度成長期の苦悩とスウェーデン・モデルの誕生
第3章 スウェーデンの企業――H&Mとイケアに見るスウェーデンの企業戦略
第4章 新しい福祉政策と年金改革――持続可能な制度の構築に向けて
第5章 成長戦略としての福祉
終 章 スウェーデンから何を学ぶか
読む側の興味によってさまざまでしょうが、筆者には日本の現状に比べて第4章、第5章が興味深く、参考になり、うらやましいかぎりでした。
特に深刻な不況のさなかにある日本人にとって気になる実体経済についてですが、著者は以下のように述べています。
2008年のリーマンショックに端を発する世界的な金融危機のスウェーデンへの影響を確認しておこう。/スウェーデン経済は、今回の金融危機が起こる以前は順調だったと言える。……スウェーデン経済は一時的に厳しい状況にあるが、米国やEUに比べると、それほど深刻ではない。……実体経済は、2010年度にはプラスの経済成長に戻ると予想されている。
「なぜ強いのか」については、詳しいことはこの本全体を読んでいただくほかありませんが、筆者としては、これは今読むに値する本だとおすすめしておきたいと思います。
(ただ本書の残念なところは、環境についてはほとんどまったく触れられていないということです。)
最後のまとめ・結論の部分で著者が述べていることには、全面的に賛成です。まさに今日本には「スウェーデンの『国民の家』のような国家理念が必要である」と思います。
われわれ日本人は、スウェーデンから何を学ぶべきであろうか。ここまでくれば、もはや明らかであろう。われわれ日本人が学ぶべきは、スウェーデンの個々の具体的な福祉政策ではなく、福祉政策をうまくワークさせているスウェーデンの国民の制度や政治に対する信頼だ。信頼という無形の社会資本である。そして、その信頼がどのように形成されているかをスウェーデンから学ぶべきだ。
信頼という無形の社会資本は、スウェーデンにあって日本にないものである。日本では、政府は持続可能性を考えない制度改革を次々に行ない、政治家は国民の政治の信頼を失墜させる不祥事を平気で起こしている。日本では、信頼という無形の社会資本は崩壊寸前なのだ。この点で、日本は危機的状況にあるといってよいだろう。
信頼という無形の社会資本を築くことの重要性こそが、われわれ日本人がスウェーデンに学ぶことだ。われわれ日本人が学ぶことは、以下の点だろう。
第一に、スウェーデンの「国民の家」のような国家理念が必要である。日本には、長期的な視野に立って、将来の日本をどうするかについての政府の理念がない。現政権にそうした理念があるとしても、国民の間で共有されていない。
第二に、国民の信頼を勝ち得る政治システムの改革が必要である。政治の透明性や徹底した情報公開が必要である。相変わらずの行政や政治の不透明ぶりで、ときどきマスコミが暴く政治の不正に、国民はただあきれるばかりである。
そして、第三に、政治に対する国民の意識を組織的に高める工夫が必要である。いくら政治不信だからといって、国民が政治をあきらめ、選挙に行かないようでは、何も変わらない。日本にも、国民の政治に関する意識を高める取り組みが必要である。「政治省」を作るぐらいの、思い切った国民の政治参加、意識の向上に努める行政の対応があってもよい。
右の3つは、いずれかひとつが欠けてもだめだ。制度、政治への信頼という無形の社会資本こそがスウェーデンの底にある強さであり、今日の日本がスウェーデンから学ぶべきことであろう。
読後、筆者が関わっている「持続可能な国づくりの会」の理念とビジョンをお送りして、これからの日本の行くべき道を示す国家理念として評価していただけるかかどうか、感想をうかがいたいと思っているところです。
しかし日本では人の成長に合わせ、将来を見据えた教育が行われてこなかったと思うのです。
その結果が今の社会状況だと思うのです。
私は子供たちの潜在意識に関心を持って、精神的な支援を心掛けていきたいと思っています。そうすれば、必ず何時かは、人を大切にし、教育を重んじる「雰囲気」ができてくるものと思うのです。
既存政治指導者の頼りなさを前提として、「国民の政治への信頼というレベル」に到達するための道程について、しっかりとした展望が必要と思われます。
唯識の五位説の考え方、1)資糧位2)加行位
3)通達位4)修習位5)究境位が参考になりますね。
スウェーデンは20世紀前半に通達位に達し、今は修習位の初期に入っているようですが、日本はまだ資糧位の段階でしょうか。息の長い努力が必要なように思えます。
「国の底力は教育のあり方による」という点、そのとおりだと思います。
日本はこれからもう一度、国民教育(ただし戦前のようなものではなく)をやり直す必要がありますね。
>isoroku-hitoshi さん
スウェーデンが修習位というのはそのとおりだと思いますが、残念ながら日本は資糧位にも入っていない凡夫の段階のような気がします。
まだまだ遥か遠いのですが、これから何とかしましょう、何とかなると思います。こういう本も次々に出るようになりましたし、これを読んだ読者の中から行動する人も出てくるはずですから。