最近、11月末に出版される予定の新著『コスモロジーの心理学--コスモス・セラピーの理論と実践』(青土社)の執筆や校正のために目を使いすぎたせいか目の調子が悪く、しばらく集中的な読書やブログ記事の更新は控えていました。
しかし、最近、何人もの方から「TPPについてどう考えているんですか」と聞かれるようになりました――特に昨日は野田首相が参加の交渉に入ることを表明しました――ので、専門的にではなく巨視的・総合的かつ原理的に見たときに言えると思われることをお答えしています。
その内容を、ブログ読者にもお知らしておこうと思いました。
言うまでもありませんが、TPPはそれだけで起こっているものではなく、新自由主義市場経済のグローバリゼーションという世界的な現象の一部として起こっている出来事です。
そこで、TPPについて論じる場合、新自由主義市場経済、別の言葉でいえば資本主義は、資本の自己増殖つまり利潤を上げるために行われる生産の様式であることを再確認しておく必要があると思われます。
資本は利潤を上げるために資源を使って商品を生産して販売し、販売されたものを消費者が購買し消費し、消費された商品は廃棄され、ゴミになるわけです。
「消費」という言葉は実は事実を誤解させるもので、消費し終わった商品は費やされて消えるわけではなく、廃棄物となって環境に残されていきます。
そして、地球上のすなわちグローバルな資源は有限であり、地球の浄化能力も有限です。
資本主義はもちろん社会主義であっても、資源の大量使用-大量生産-大量消費-大量廃棄という近代の産業システムは、入り口と出口に決定的な有限性があって無限の成長を続けることは不可能であることは繰り返し述べてきたとおりです。
つまり、端的に言えば資本主義すなわち新自由主義的市場経済のグローバリゼーションは、地球環境に対しては適応的ではない、と筆者は考えているのです。
したがって、筆者たちのようなエコロジカルに持続可能な世界を求める立場からすれば、自由主義的市場経済のグローバリゼーションの暴走的拡大にはまったく同意することができません。
市場の暴走を制御する機関のないまま自由主義市場が無限定に拡大することには賛成できないのです。
(もしそういう国際機関ができれば、市場が経済システムとして持っている一定の有効性・効率性を生かすことには反対ではありませんが。)
特に多くの農業関係者が危惧しているとおり、農産物の関税撤廃によって日本の農業が壊滅的な影響を受けることはほぼ明らかだと思われます。
そして、基本的に自由貿易協定であるTPPに参加しながら、農産物の関税撤廃だけは受け入れないということはほとんど不可能でしょう。
すでに、木材については1961年に始まり64年に完全自由化され大量の安い木材が輸入されたために日本の林業が壊滅状態に追いやられ、その結果、いまや日本の山林の荒廃すなわち国土の荒廃が恐るべきスピードで進んでいることは、現場を知っている人にはきわめて明らかなことです。
このままいけば、おそらくまちがいなく農業についても同じことが起こり、林業に続く農業の衰退は、日本の国土全体の取り返しがつかない荒廃を招くことになるのではないでしょうか。
そういうわけで、理念と戦略なき安易なTPP交渉への参加は賛成できません。
しかし、世界経済の現段階では当面、市場経済のグローバリゼーションが続くことは避けられませんから、日本経済もグローバリゼーションをまったく拒否して「鎖国」的経済に向かうことは不可能でしょう。
だとすれば、「エコロジカルに持続可能な国家へ」という理念およびそこに向かうビジョンと戦略を明快に持った政府が、固い意志と巧妙な外交交渉能力を持って戦略的にTPP交渉に向かい、ゆずれるところはゆずりながら、ゆずれないところは徹底的に押し通すというあり方が望ましいと思われるのですが、はなはだ残念ながら現状の政府はそうした理念、ビジョ、戦略、意思、交渉能力を欠いているようですから、これでは日本は先行きどういうことになってしまうのかと大変心配しています。
読者のみなさんは、TPPについて、さらには新自由主義市場経済をどう考え、どうすればいいと考えておられるのでしょうか?
TPPについては大変な問題だとはなんとなく思われつつも、その何が問題なのかわからずおりましたが、農業はじめ日本の明日にとって決定的な問題だということがわかりました。「中庸」と言いつつ主流に流されるだけの首相・政権与党にはきわめて疑問を感じます。「緑の福祉国家」を堅持しつつ強力に意思を通せる政府がぜひほしいとおもいました。それにしても不安な日本の先行きだと感じます。
有難うございます。おかげさまで、目はとりあえず回復しました。
しかし、これで調子に乗らないほうがいいようです。疲れすぎないようにペースを考えながら、細めでも長く社会的発言を続けていこうと思っています。
緑の福祉国家を目指す政府が切望されますね。
その手の大型施設が、日本中で次々とできていくことに疑問に感じながらも、自分も便利なのでそうした場所を利用することが度々です。そして、消費の渦に巻き込まれそうになります(特に、可愛い子ども用品や玩具のあれこれ)。
市場経済のグローバリゼーションも同じで、どんどん「大型化」が進んでいて、それに対抗する、やはり「理念とビジョン」がなければ、その渦に巻き込まれてしまうと感じます。
TPPについて、信頼できる政府が欲しいと願うとともに、上のshinoshinoさんがおっしゃっている通り「日本の明日にとって決定的な問題」と当事者意識を持ち、主体であれるような市民・国民が育つ必要があるし、育っていって欲しいと思います。
そうです。電力等の無駄遣いもいいところで、出来てもあまりうれしくありません。
しかし、個人が利用するのを拒否しても大勢に影響はありませんので、明日あたり様子を見に行こうかと思っていますが。
こうした大型店舗は周囲の地味で地元に根を下ろした商店街を疲弊させ、結局地域全体の活性化につながらないことは、これまでの多くの例でわかっているはずなのに、またしても、という感じです。
それに、今後の日本の景気を考えると、この規模のショッピングモール全体が採算が取れて栄えるとは予想できません。
理念とビジョン無き開発の行く末がどうなるか、観察していこうと思っています。
それにしても、日本国民もそろそろ目を覚ましてほしいですね。
日本農業壊滅はほぼ確実とはおそろしいことです。また、国土の非常な荒廃という観点でTPPが語られているのはほとんど聞きません。わが国のリーダーもマスコミもなんと近視眼的なのでしょう! そういえばあの戦争もこうやって状況に流されてはじめてしまったのでした。ほんとうにわれわれ日本国民は目を覚まさなければお先真っ暗ですね。。。
おかげさまで、目は大丈夫のようですが、今後無理はできないなと思っています。
そうですね、たぶんあの戦争もこんなふうに空気で動いてしまったのでしょうね。
目を覚ましさえすば、先は明るいのですが……目を覚ましてほしいですね。
どうか今後は余りご無理をなさらないようにしてください。
TPPについては私は農業が守れないならば
参加すべきではないと考えておりましたので、今回の記事はとても参考になりました。
鹿児島県では農業が主産業な為、知事も議会もTPP交渉参加には反対の意見を政府に示していたのに、資本主義社会ではそういった地方の意見は無視されてしまうのでしょうか。
ただ今日野田首相は国益を損なう場合は、
TPP交渉から離脱すると言っていましたが、果たして本当に日本が国際会議の場ではっきり自己主張出来るのか心配です。
現にAPECでは野田首相の発言が曖昧な為に、
アメリカには日本は全ての関税を撤廃するつもりだと誤解されています。
このままだと本当に農業が衰退し、日本の国土が荒廃してしまうのではないかと非常に不安です。
日本国民も早く政治アレルギーから抜け出し、主体的に考え行動出来るようになって貰いたいです。
昨日のニュースで、全国市町村長会が全会一致でTPP反対の声明を出したと言っていました。
さすが保守体質の地方も、問題に気づきはじめているのでしょうか。
近代化―都市化―地方の疲弊―国土の荒廃という問題の関連性に多くの地方の政治家や農業関係者が気づいてくれると、少し事態が変わってくると思います。
とにかく、政治アレルギーを治療する必要がありますね。