少し休みができたのでようやく今夏にヨーロッパで登ったブライトホルン北壁について書いてみました。
ブライトホルンという山自体は『ノーマルルート』に限って言えばヨーロッパアルプスの中でも最も登り易い部類に入る山です。それだけに登山ツアー会社などでもたまに公募企画されています。しかしそれはあくまでも『ノーマルルート』であって、バリエーションルートということになると全く別次元となります。特にこの山の北壁一帯はスケールが大きく、傾斜も強く、物凄い迫力で突き上がっていてその威圧的な姿に圧倒されるほどです。 実際、昨年にもアタックしたのですが猛烈な恐怖やプレッシャーに襲われて敗退していたのです。特に単独登攀での挑戦はそれら精神的なことがモロに影響してきます。ということで「今年こそは絶対に!」という思いで再度登りに出かけました。 結果的には今年は完登することができました。
ルート内容としては単純な「壁」や「稜」のルートではなく、クレバスの多い2つの氷河を横断してようやく取付きに達し、そこから標高差1300mを急な岩稜、氷河の段差の乗り越し、クレバス帯の通過、急な氷雪壁からミックス壁、そして最後にまた氷雪壁の登攀という感じで、盛り沢山?の最初から最後まで全く気の抜けない登攀でした。特に見渡す限り一人のクライマーも居ない中でそのような登攀を行うことは非常に恐ろしいものがありました。でもその点、大きなスケールの中でのプレッシャーとの向き合い方や気持ちの持ち方、その他多くのことを学べたと思っています。そういう意味で非常に良い経験ができたと実感しています。
ブライトホルン全景。赤い実線が登攀ルート。
氷河からルート上部を見上げます(偵察時)
同じくルート上部(偵察時)
ルート中間部くらいから上部壁を望みます。
上部壁を見上げます。この上部壁だけでも標高差500m! 平均斜度60度。部分的に70度の氷雪壁とミックス壁が続きます。
上部壁内のミックス壁部分を進みます。氷雪部分はダブルアックス、ミックス部分はアイゼンクライミングで登っていきます。 実は写真が撮影できる場所はまだまだ易しい部分なのです。ロープを使用しない完全なフリーソロで登っているので殆ど写真を撮ることができないのです。
長い登攀を経てようやく山頂に到着。自分が刻んだ唯一のトレースを見下ろします。感動で胸がいっぱいになりました。
山頂にはノーマルルートを登ってきた登山者が大勢でした。さすが人気の山ですね。 下山は易しいノーマルルートを下りましたが実はこの下りにとても苦労しました。というのも北壁登攀で酷使し過ぎた両太ももが攣りまくり、時折膝から崩れ落ち、悲鳴を上げながらの下山となったからです。でも大変な思いをして登った山こそ思い出深いものになるのです。そしてまた次を目指して登りに行きたくなるのですね。