写生自在12 老いを詠む
せめて世に交はる流行風邪をひき 迦 南
此処とてもまた仮の宿日南ぼこ 〃
寒梅の咲いて何やらはげまされ 〃
移り来て球磨の夕野火見ることも 〃
老人とみられたくなく日記買ふ 〃
老いぬれば何あてもなき冬至まち 〃
布団敷きに来し宿の婢に年問はれ 〃
起き臥しの老いの布団のあげおろし 〃
われ老いたり、という句をならべてみました。どれも平明で解釈の難し
い句はありませんね。しかし切々として読み手のこころに迫るものがあ
ります。
年を取って生を終える問題は誰にとっても重大事です。しかし、俳句は
そのような問題に関わるには最も不向きな文芸なのです。季題を通し
てわずかに想いを吐露する、それで精一杯なのです。
しかし上掲句などを読めば哀情惻々たるの感を否み難いのも事実で
す。