写生自在16 朝鮮時代2
仲秋や市人の肩の冠影 迦 南
杖つきて扇かざして冠翁 〃
冠置く酒幕の窓や春の山 〃
上記三句「冠」がキーワードです。李氏朝鮮時代に材を取った韓流テ
レビドラマが盛んに放映されていますが、そこに出て来る男優たちの
被っている帽子が「冠」のようです。位階によって形や飾り物が違うよう
ですが、詳しいことは分かりません。わたしの印象では鍔が広く透けて
いて屋内でも被っているようです。
一句目、植民地時代の朝鮮でこれを被っているのは朝鮮人だろうと
思われますが、仲秋の強い日差しの中で「冠」の影が肩に落ちていると
いうのです。市人とあるので市中を歩いている朝鮮人の男となります
が、男たちは皆申し合わせたように肩に「冠」の影を落としている、それ
が注意を惹くというのです。内地では見られぬ光景だけに興趣を覚え
たのでしょうね。
二句目、5・7・7と字余りになっていますが、接続詞の「て」がよくはた
らいて軽快です。座五は「カンムリオキナ」と読みたいですね。白い顎
髭なども想像されて朝鮮老人が活写されています。
三句目、現在も酒幕というような形式のお店があるのかしりません
が、これは宿泊もできる大衆食堂らしいです。そこの窓に「冠」が置か
れてその先に春の山が見えるというのです。静物化した「冠」と明るい
春山の対比です。前二句は人物が詠まれ、三句目は朝鮮の春が詠ま
れています。いずれも佳品です。